友好
ワイアプラ



 目が覚めると、やはりベッドにいた。今までにないくらい、上等なベッドだ。やはり、服は変えられていて、剣はそばに置いてある。マントは椅子にかけてあり、留め具はマントに付けられてあった。俺の首には、逆十字のペンダントが下げられていた。
 体を起こす。窓からは外の景色が見える。どうも、城の中にいるようだ。日は高い。
 扉が少し開いた。誰かが、こちらを覗いている。
「あの、入っていい」
客観的に聞けば、可愛らしい声で月姫さんが言った。彼女の背後に別の人の気配も感じたので、俺はうなずいた。
「ありがとう」
そう言うと、彼女は俺の部屋に入ってきた。彼女は制服ではなかった。王女用のドレスを着ていた。
「変でしょ」
はにかみながら、彼女はそう言う。俺は、何の反応もしなかった。
「座るね」
彼女は俺のマントがかかっていない椅子をベッドの近くに持ってきて、そこに座った、彼女の目線と俺の目線が、ちょうどぶつかり合う高さになった。
 俺はうつむいたまま、彼女の顔を見ない。
「あのね、許してもらえるとは思ってないの」
彼女はそう切り出す。
 彼女は、頭は悪くないだろうに、底辺学校にいたから、きっと素行が悪いんだろうなと思っていた。だが、そうではないらしい。友達にせがまれてきた、と聞いたことがある。本当は、俺以外には、優しいんだろうな、と思っていた。
「ずっと、君のこと見て見ぬふりをしてきた。それが一番卑怯なことだって分かってる。本当は、何度も助けようと思った。でも、いつも友達にとめられるの。本当、本当だよ!」
「……そんな友達切り捨てればいいじゃないか。あんたも、いじめられるのが怖かっただけだろう」
俺の口から、唐突に小さなかすれた声がでた。喉の奥から絞り出して、ようやっと出た、そんな声だった。
「そうだね。そうじゃないって言ったら、嘘になるね。でもね、友達は私にとっては、良い子だったの。我儘だったし、正直頭もあんまりよくなかったけど、私が悩んでたり悲しんでると、一緒になって悲しんでくれる子だったの」
 俺は、男だし友達もいなかったから、彼女の気持ちなんてまるで分からない。そいつは友達だったんじゃなくて、ただの運命共同体が欲しかっただけなんじゃないか。そう思ったけど、口には出さなかった。
「君が、家でもいい思いをしてないのも知ってた。ずっと、いじめられてたのも知ってた。先生が、見て見ぬふりしてるのも知ってた。私が言えば、先生は何かしてくれたかもしれない。そう思ってた。それで、あのとき、無視されて、初めて分かったの。私が何をしてきたか、君がどんな重いをしてきたか」
「それで」
俺の知らない俺の声が出た。こんな冷たい声は、出したことがなかった。
「だからせめて、謝ろうと思って。ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……」 彼女は途中から、泣き出した。泣いたところで許すつもりなんてなかった。
 かける言葉なんてなくて、そのまま黙っていた。沈黙が、身にしみた。
 ばあん、と扉が開いて人が入ってきた。この人は、だれだろう。老けた顔に、白髪交じりの髪。高貴そうな服をしているけど、なんだか生気がなくて気持ち悪い。
「これだけ、謝ってるんだから許したらどうなんだね」
静かだが怒気を孕んだ声で、男は言う。こいつは、先生と一緒だ。
「お父様、いいの。いいのよ、私が、悪いんだから」
「いや、よくない。娘を助けてくれたことには感謝する。だが、謝っている人間に対する、その態度は関心しない。我が娘が、これだけ誠心誠意謝っているのに」
「うるさい」
さっきと同じ、冷たい声が響く。俺じゃない俺が喋ってる、そんな気分だった。顔を上げて、男の顔を見た。
「黙れ、じじい。俺は、許すつもりも、仲良くするつもりも、復讐るすつもりもない! できれば関わりたくないくらいなんだ! もし、こいつらが俺と同じくらい苦しんで、謝ってきたとしても、俺は取り合うつもりはない! お前に何が分かる!? お前は、ないがしろにされ、実の家族にさえ痛めつけられ続けたことがあるのか!? 俺の気持ちが分かるのか! 分からないだろう! わかるはずがない! 俺は低級庶民、お前は王様だ! 分かりもしない癖に口を出すな! 勝手に自分の中で思っていればいいだろう! 俺の邪魔をするな!」
 初めて、人に対して怒鳴った。こんなに怒ったのは初めてだった。俺を虐める奴がいないからなのか、世界が違うからなのか。分からないが、ただ気持ちは少しだけすっとした。怒っているうちに、わけが分からなくなって、カッとして、頭が真っ白になって、思い出してしまって、涙が出てきた。意識なんてしてないのに、別に悲しくなんてないのに、ぼろぼろ涙が落ちる。止まらない。
「貴様! その口のきき方はなんだ!」
「お父様! お願いだから、出て行って!」
「……ジュリエラ。……分かった、仕方がない、出ていこう。だが、何かあったらすぐに言いなさい、いいね」
そう言い残して、男は出て行った。再び、沈黙が訪れる。
「もう、出ていってくれないか。一人にしてくれ」
やっと出た言葉はそれだった。かすれた、響かない小さな声だった。
「うん、ごめんね。本当に、色々とごめんね。さっきも言ったけど、許してくれなくていいから」
「……分かったから、早く出ていってくれよ!」
「うん、ごめんね。ただ、これだけは言わせて。……助けてくれて、ありがとう」
そう言って、彼女は部屋を去った。俺は布団に潜りこみ、泣いた。悲しくなんてない、痛くもない、悔しくも嬉しくもないのに、涙が止まらなかった、たまらなく、人肌が、恋しかった。
 涙が枯れてからも、布団から出る気になれなくて、ずっと潜っていると、誰かが入ってきた。なんとなく、ティツィアーノさんだと思った。俺の方に近づいてくる足音がする。ベッドが軋む。
 俺は目を開けたまま、頭まで被った布団の中で、じっとしていた。
「さっき、王女殿下がお前のところにきただろう」
この人もこの話をするのか、と呆れて耳をふさいだ。
「殿下は、ラティエラ殿下に止められたにも関わらず、お前のところに行ったんだ。ラティエラ殿下は、妾腹だから、お前と同じように、ずっと迫害されてきたんだ。……お前は、俺達のことを信頼しきれないんだろう。そんなのは、見ていれば分かる」
ティツィアーノさんは、静かに話し続ける。俺は耳をふさぐのをやめて、聞いていた。
「お前がどんな人生を歩んできたかなんて俺は知らないし、知りたくもない。だから、お前の生き方にどうこう言うつもりはない。だがな、俺はお前だからついてきたんだし、フランシスカもお前だからついてきたんだ。悲しみと痛みを俺より遥かに小さな体で背負い、苦しんでるお前だからついてきたんだ。人の痛みが分かる、そんなお前だったから一緒に行く道を選んだ。今はまだ、お前は弱い。正義の味方ってわけでもないし、お前に正義に突き進めなんて言うつもりはない。王女殿下と仲直りする必要もないと思ってる。ただ、忘れないでほしいんだ。少なくとも俺とフランシスカは、お前のことを信じてる。出会って半年も経ってないが、お前に死んでほしくない、そう思ってるんだ。そういう人間だっているんだ。それを、忘れないでくれ」
 ベッドのスプリングが軋む音がして、ベッドがもとに戻ってのが分かる。扉が開いて閉まる音がして、ティツィアーノさんが出て行ったのが分かった。
 言葉に嘘はないように思えた。俺を慰めるための嘘なんかではなかった。俺はまた、泣いた。今度は、多分、嬉しくて、泣いた。否、嬉しいのとは違うのかもしれない。ただ、なんだかあったかくて、こそばゆくって、ほっとして、涙がでた。俺はまた、枕を濡らした。

 俺が、やっとベッドから出て、数日経った。特に何をするわけでもなく、城の中で、偽物のような歓迎を受けていた。ラティエラさんの眼は幾分穏やかになったが、王の眼と宰相の眼、は俺を見張っていた。
 ある日俺が、一人で城をうろついているときのことだった。明らかに俺を敵視しつつ、歓迎している人達と一緒にいるのに疲れて部屋に戻ろうとすると、俺の部屋から、物音が聞こえた。もし、これが宿での話なら、放っておいた。いつもは、ティツィアーノさんと同じ部屋だからだ。だが、今は一人部屋だ。ティツィアーノさんも、俺に無断で入るような真似はしない。
 俺が足音をたてないようにこっそり、部屋に近づくと、誰かが出てきた。濃紺のマントをかぶったやつだ。手には、魔剣の入った革袋を抱えている。
 「待て」と、大声で言いたいところだが、そんなことをしたら相手も全力で逃げるだけだ。俺は、こっそりと跡をつけることにした。
 相手は、人目を気にしつつ進んでいく。そいつは、ある扉を開いて中へ進んでいった。その扉の中は、真っ暗だった。
 俺は追うのをやめ、ティツィアーノさんとフランシスカさんに助けを求めることにした。魔剣がなければ俺は何もできないのと同じだ。
 俺は急ぎ足で城の中を駆け回った。フランシスカさんはだいたい中庭にいるのだが、ティツィアーノさんはどこにいるのか分からない。
 俺は先にフランシスカさんに話をしようと、中庭に行く。そこでは、月姫さんとフランシスカさんがいた。
 少し嫌だったが、背に腹は変えられないので、俺はフランシスカさんに声をかけた。
「フランシスカさん、あの、ちょっと」
と言って、フランシスカさんを木陰に連れ出す。月姫さんが悲しそうに顔を歪めたが、仕方がない。
「俺の魔剣が、誰かに盗まれたんです」
「……!? 誰に盗まれたの?」
「濃紺のマントを着た奴なんですけど、顔は分かりませんでした」
「ティツィアーノさんには、言ったの?」
「これから探しに行くところです」
「分かったわ、私は先に行ってるわ。そいつはどこに向かったの」
俺が扉の場所を教えると、フランシスカさんは月姫さんに別れを告げて、去って行った。
「あの、私に、何かできることはない?」
小さな声で、月姫さんは言う。この際、仕方がないので協力してもらうことにした。
「ティツィアーノさんがどこにいるか知らないか」
「ティツィアーノさん……? ティツィアーノさんは知らないけどラティエラさんなら知ってるよ。図書館にいたはずだよ、困ってるなら、行ってみたらいいと思う。こんなことしかできなくて、ごめんね」
「別にいい」
 俺は図書館へ向かった。そこには月姫さんの言うとおり、ラティエラさんがいた。俺がこの話をすると
「やはりな、やつらの狙いには、魔剣も含まれていたか。丁度いい、これを機にやつらを叩こう。お前、魔剣なしで何かできるか」
と聞かれた。俺は首を横に振った。
「そうか、おそらくティツィアーノを探している時間はない。私の予備の剣を貸すから、私と来い」
ラティエラさんはそう言って、腰に差していた魔剣を貸してくれた。てっきり、魔剣を放っておくなと叱られると思っていたので、拍子抜けだった。
 ラティエラさんはすぐそばに置いてあった聖剣をつかみ、俺とともに例の扉へ向かう。
 扉の向こうは、やはり真っ暗だ。フランシスカさんは魔法が使えるけれど、ラティエラさんはどうなのだろう。と思っていたら、光を灯す魔法を使い、俺達は部屋の奥へ進んだ。
 走っているのに、未だに奥へたどり着けない。ラティエラさんが言うには、魔法がかけられているそうだ。
 俺が息切れをするぐらい、走ると人の声が聞こえてきた。誰かが戦っている。おそらく、フランシスカさんだ。
「フランシスカさん!」
俺が叫ぶと「ユータ!」と返事が聞こえた。
 進んだ先には、明かりがついていた。そこには扉があり、フランシスカさんとオールバックが戦っていた。
「ユータ、こいつは私が足止めしておくから、先に行きなさい! 早くしないと、魔剣がこいつらの主に持って行かれてしまうわ!」
「行かせるか!」
オールバックが叫ぶ。だが、フランシスカさんのおかげで、そいつは俺達に手も足も出せなかった。
 ラティエラさんが扉を開けようとするが、鍵がかかっていて開かない。
「残念だったな」
オールバックが、せせら笑う声が聞こえる。
「少し、退いていろ」
ラティエラさんがそう言うので、俺は少し下がる。すると、ラティエラさんは扉に向かって思い切り聖剣を振った。振り終えてからラティエラさんが扉を蹴ると、扉は音を立てて倒れた。
「残念だったな」
ラティエラさんは先程のオールバックを同じ口調で言うと、「行くぞ!」と扉の向こうへ行った。俺も「お先に」と挨拶してから、進んだ。
 扉の向こうは、下へと続く階段だ。魔法学校とは違い、真っ直ぐになっている。
 突然ラティエラさんが止まった。原因は分かっている、あの殺人鬼が降りてきたからだ。
 薄い青緑のまだら模様のある灰色の髪と、瞳孔だけが赤い黄色の眼。気味悪い奴だ。
「ちっ、仕方ない。ユータ、私がこいつの相手をするから、先に行け!」
 俺はラティエラさんに従い、ラティエラさんを通り過ぎようとした。
「行かせないヨ」
殺人鬼がナイフを放ってくる。しかし、ラティエラさんの聖剣に阻まれる。
「私を甘く見るなよ」
「ふ〜ん、月明かりの浄化プラチナカタルシスか」
ラティエラさんは、そう言って殺人鬼に斬りかかっていった。殺人鬼も俺の相手などしていられなくて、ナイフで聖剣を受け止めた。薄暗い階段に、金属音が響いた。
 俺は迷わず進む。今までの俺なら、諦めるか一人でなんとかしようと思ったけれど、俺にはティツィアーノさんとフランシスカさんがいる。一人なんかじゃなかった。
 しかし、道を阻む奴はいる。俺の目の前に、忽然と姿を現した奴がいる。宰相だ。くすんだ金髪に、薄紫の眼。銀縁の眼鏡をかけている。
「やっぱり、あいつらの仲間だったんだな」
「ええ、気づいていましたか」
「あの眼を見れば普通は気づく。……王も、そちら側なんだな」
「ふふ」
「一体、何が望みなんだ!」
「フラヴィオ、あの殺人鬼に聞いたんじゃないですか?」
「戦争を起こすつもりか。だが、なぜそれに俺の魔剣が必要なんだ!」
「俺の、ですか。聖剣と同じく魔剣も代々受け継がれるもの。ずっとあなたのものではないのですよ」
「当たり前だ、俺は死ぬ! 話をそらすな!」
「はっ、そうですね。なぜ、なぜかと言われれば、我が主が必要としているから、ですかね。別に戦争を起こすことには、無関係なんですよ」
「くっ。主とは、王か」
「さあ、どうでしょうね」
「……正直、俺はこの世界で戦争が起きようがどうしようが、気にしない。だが、俺を大事に思ってくれる人がいる。それに、魔剣が選んだのは俺だ。あんたの主とやらじゃない! あれは俺のものだ、返してもらうぞ!」
俺はそう言って、宰相に斬りかかる。宰相も、細身の剣で受け止める。
 今、使っているのは魔剣じゃない。だからいざとなった時の、魔法はなしだ。俺は、初めて死ぬ気で、剣を操った。
 階段だから、足場が悪い。上がったり下がったり、気をつけないと転ぶ。それなのに、俺はつまずいた。俺の運動神経は、やはり鈍いようだ。
 宰相の剣が降ってくる。俺はなんとか受けとめようとした、その時だった。 キンッ
 俺のものではない剣が宰相のそれを受け止めた。
「遅くなって、悪かったな。王女殿下に聞いたんだ」
ティツィアーノさんだった。一気にほっとして、一瞬力が抜けた。しかし、俺はすぐに立ち上がる。
「俺の弟子を、随分可愛がってくれたようだな」
「……チェーザレ?」
「はっ、誰だそりゃ、人違いだ。ユータ、先に行け! こいつは俺の獲物だ」
「はい、お願いします」
 俺は、階段を駆け下りた。この先に、王か奴らの言う主か、どちらかがいるはずだ。魔剣が自分から戻ってくることがない限り、俺はこのラティエラさんのただの剣で戦わねばならない。俺は息を吸い込んで、覚悟を決めた。
 俺の予想通り、階段の先には、広い部屋があった。大きな鏡に向かって、濃紺のマントの奴が何か喋っている。
 俺はこっそり、近づく。上手くいけば、奴を背後から襲える。
 しかし、俺の考えは甘かったようだ。奴は、振り向いた。そいつは、やはり、王だった。恐ろしいことに、目が少しイってる。殺人鬼のものとはまた違う、別の意味で気味の悪い目をしている。強いて言うなら、あの白髪の奴らに近い。
 王は、魔剣を振りかざした。重たくて上手く扱えないようだが、とりあえず、振れている。俺以外でも、剣として扱うことならできる。
 俺は初めて、魔剣と対峙する。ただの剣で、いくら魔法がないとはいえ魔剣と対峙するのは、何かが違う。いつもは感じなかった、恐怖がある。禍々しさを、肌で感じて身震いする。
「震えているのか、小僧」
「……武者震いだよ」
俺は言うと同時に斬りかかる。王は、重い剣でそれを受けとめた。対峙して分かるが、この剣を弾き飛ばすのは、王が手を放しでもしない限り、無理だ。
 王は魔剣の重さにふらふらしながらも、俺に向かってくる。その光景は、薄気味悪いものだった。何かを盲信しているような、逃れられない麻薬でも吸っているような、そんな感じだった。
 相手がふらついていても、魔剣は重い。受け止めるのは大変だし、ふらついているせいで、どこに来るか分からない。俺から、攻撃を仕掛けることができないでいた。
「どけ!」
聞きなれたティツィアーノさんではない声が聞こえた。彼より少し高い、ラティエラさんの声だ。
 俺が王の前からどいた瞬間
冷湖凍海フロージングマリン!」
ラティエラさんが技を叫ぶ。部屋の中が一瞬にして冷気に包まれ、その中を大量の水が渦巻きながら進む。目標は、王だ。王は足元がおぼつかない。自分に危険が迫っているのは分かるが、魔剣を捨てるわけにはいかず、どうしようもないのだ。とうとう王は、魔剣を捨てた。しかし、間に合わなかった。水は王を襲い、水が王の腰の低さに減るころ、水は凍りついた。
 王の動きを止めている水以外は、すぐに引いて行った。俺は即座に魔剣を拾い上げた。
 ラティエラさんは靴音を響かせながら、王に近寄る。
「ラティエラ、悪かった。私がどうかしていたのだ」
王は、みっともなく助けを請う。ラティエラさんは鼻で笑った。
「確かに、魔剣は耐性の無い奴が扱おうとすると精神に支障をきたす。だが、私にそんなことは関係ないな」
「ど、どういうことだ」
「お前が、セレスティーヌと結婚したときから私はお前が気に食わなかった。お前が私を好かなかったようにな。私にはお前が、セレスティーヌやジュリエラを愛しているとは思えなかった。お前が愛していたのは、王という地位と、優しい王妃と美しい娘を持っている自分だ。セレスティーヌが病で死んだとき、私が真っ先に疑ったのは誰だと思う? そう、お前だ。そして、私は調べた。お前のことを調べた。聖剣を手にしたのも、魔剣のことを知ったのも、それを通じてだ。お前の後ろに誰かがいて、お前を操ってることも知っている。だが、まずはお前だ。妾腹の私を、実の弟のように可愛がってくれたセレスティーヌ姉様を殺した、お前からだ」
ラティエラさんの顔が、徐々に憎悪にまみれていく。王のことを心の底から、憎んでいるのが俺にも伝わる。空気が、電気を放っているように痛い。
「本来なら、こういうときに王を殺すのは、お前の役目だろうな。だが、悪いが私はこいつに恨みがある。私に殺らせてくれないか」
ラティエラさんは王から目を離さず、俺にそう言った。俺は「ああ」と小さく言うことしかできなかった。
「ま、待て、話し合えば分かる」
「何を言ってるんだ、話もせず、私をないがしろにしてきたやつが」
「そ、そんな昔のこと、今更」
「昔? たった数年前のことだ」
「やめろ、私は王だぞ!」
「なら私は先代王の息子だ。……私が魔剣使いなら、お前を炎で苦しませながら焼き尽くすことができた。だが、私は攻撃魔法を苦手とする聖剣使いだ。この剣で、お前の心臓を一突きにしてやろう」
「や、やめろ、やめろ、やめろ。あ、あ、あああああああああ」
 王は叫びながら絶命した。ラティエラさんはすっきりしたような、悲しそうな顔をしていた。見ていて、痛々しかった。同時に、俺を見ているようだった。
「ユータ、殿下!」
ティツィアーノさんが降りてきた。
「無事か、ユータ」
「あ、はい、魔剣も」
「そうか、よかった。殿下、王は」
「死んだ」
「そうですか。とりあえず、戻りましょう」
 俺達は、なんだか重苦しい空気のまま、城に戻った。



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