AM10:43>クローズ・コンバット


 *

《対象、シエラ2と交戦開始。引っかかりました》
 和真からの通信を受け、野上は『ヴィタリタス』の後部席にて小さくガッツポーズ。
 ……ひとまずは成功。
 マナ・リアクターが使用できない以上、『賢者』を殺すことは困難。ならば、敵の意図だけでも挫くしかない。
 そこであえて戦力を分断。隼斗が挑発で『賢者』を引きつけ、その隙に和真が爆弾の設置を終えてしまおうという作戦だ。
 隼斗の尋常でない戦闘能力を信用し、またここに居る『賢者』がボンクラであるという前提の作戦。
 ……果たして、上手く行くのか。
「よし。じゃあシエラ1、ターゲットの画像お願い」
《シエラ1了解。送ります》
 そこから数秒と経たず和真が手にした個人端末から画像が送られてくる。そこに表示されるのは目標である『謎の構造物』。
 地面から根のような構造物が伸び、幹のようなものを経て、地上4メートル程の場所に台座に支えられるように緑色に光る卵のような構造体がある。
 “卵”の部分はビームで貫通され、焼け焦げた貫通痕があり、同時にそれをツタが覆い修復しているようにも見える。
 それを、マナ検知器で重ねて見れば、
「OK来た。……うん、やっぱり“卵”の下の“根”みたいな部分、そこからマナを吸い上げてると判断していいと思う」
 和真たちが降りる前から検知していたマナの動きから、野上はそう判断した。
 マナの濃度は、“根”を通じて濃くなり、“卵”の部分に収束しているような分布。
 ウルティマ・ラティオの打撃を経て流出したマナも、再び“根”に集まっている流れを見て、野上は確信したのだ。
《了解。……では、爆破は“卵”でなく“根”を?》
「そうだね。“卵”じゃ、また修復される危険がある。元を断たないと」
 言いながら、野上はコックピット内のディスプレイに表示した幾つかのウィンドウを見、
「でも“根”の強度は相当ありそう……手持ちのC4じゃ足りないと思う」
 “根”は恐らく植物系。となれば、幹などの太い部分は爆薬では崩壊に至らないだろう。
 となれば、
「“根”の上の方、“卵”と“根”との接続部分なら、多分強度もそう無いはず。そこを狙って!」
 異なる構造体の接合部分を狙うのがセオリーだ。
 ……そこで“卵”を“根”から破断させられれば再生も止まる。
 そうなればウルティマ・ラティオのダメージから、未だマナ流出が続いている“卵”はいずれ壊死するはず、と野上は判断した。
《あの高さを登れと……まあ出来ないことも無いですが》
「そこは根性だよ。何とか頑張って」
 ……最悪のパターンは、爆弾を使い果たしても破壊しきれないこと。
 下手なところに設置はできない。無茶と解っていても、爆弾を浪費するよりかは分のある“賭け”だ。
「あと、隼斗が引きつけてる『賢者』に作業を邪魔されないようにね!」
《無茶言いますね全く……何とかしてみますよ。通信終了》
 賭け。
 そう。これはもう作戦でも何でもない。賭けだ、と野上は一人やりきれない思いになる。
 物資がほぼ尽き、まともな装備も持たせられずに特攻にも近い状況下に部下を送り込むなど、指揮官のやることじゃない、と。
「お願い……勝ってよ、二人共……」
 両手を組み、小さく呟くように、かすれた声で野上は祈る。
 二人の無事を願うように、あるいは、自らの罪を悔いるかのように。



 3度、最下層に金属音が轟き、光が跳ねる。
 緑の光を反射し踊るのは、細身の西洋片手剣。
 対し受けるのは、セラミック加工により闇に溶けるような鈍いグレーをしたコンバットナイフ。
 人外の速度で迫る西洋剣を、しかしコンバットナイフは的確に捌いていく。
 ――隼斗は、恍惚の中にいた。 
 自身の反応速度がよりいっそう引き上げられるような感覚。
 そして、相手の動きと流れを読み切り、支配し切る快感。
 2つの感覚に隼斗は歪んだ笑みを浮かべる。
 幾度と重ねた対賢者戦。生身でやりあうのは初めてだったが、隼斗は十二分に対応できている。
 動きは、確かに速かった。反応速度も。弾丸を弾き落とすだけあって、おそらく相当強化されている。
 もはや人外の域に達しているといってもいい。
 故に先程から隼斗は防戦を強いられる一方であったが、
 ……だが、“速いだけ”だ。
 動き自体はド素人。
 無駄が多い上に、その動きは挙動からあからさまに読み取れる。
「無意味なあがきを! 例え私を殺したとしても、もはや止められんよ」
 斬り合いながら西洋剣の持ち手、銀髪の青年が言葉を放つ。
 青年はなおも強気を崩さずにいるが、隼斗には解る。
 ……焦っているな。
 人外の力をもってしてなお、“たかが人間”相手に手こずっているという事実に。
 ただでさえナマクラな動きが、より勢いを欠いている。
「ンなこたァどうでもいい。人類だの何だのには興味ねェンでな」
 下から振り上げる一撃。それにコンバットナイフを持った隼斗は青年の体の動きから軌道を予測、ナイフを予測軌道まで持って行き、
 快音。
 反動で両者がよろめき、しかしすぐに青年は態勢を整え、次を構える。
「ほう。何なら興味があると?」
 上段左からの袈裟斬りを受けながら振り払い、打撃による金属同士の衝突音がさらに響く。
「決まってる」
 だが『賢者』の手は止まない。
 更に素早く二連撃。左右の横薙ぎを手早く捌く。
 次に来るのは、
 ……正面からの突き。
 ここだ、と隼斗は悟った。
 打ち合いの中で引き上げられた反応速度の中、止まって見えるような愚鈍な溜め動作。
 その軌道も手に取るように読める。
 ナイフを準備させ、同時に左手は腰に。
 直後、読み通りに剣が来る。右腕のナイフは自然に予測軌道へ向かい、
「テメェの――」
 真正面から突き込まれる西洋剣の腹に、横から払うような打撃。
「なっ――?」
 ぶれた剣先は目標から大きく逸れ、しかし全力の突きは勢いを殺しきれずに空を切る。
 そして、そこに生まれるのは、致命的な隙。
 隼斗は、がら空きになった『賢者』の胴へえぐるような蹴りを叩き込んだ。
「が……はっ!」
「――血と肉だよ!」
 みぞおちに安全靴のつま先をモロに喰らい、青年『賢者』はよろめきのけぞる。
 それを逃さないよう、隼斗は即座に左手で腰から自動拳銃を引き抜く。
 国連軍で制式採用されたシグ・ザウエル社製P226。
 青年『賢者』はそれを見ながら、無理矢理体を起こし剣を構え、
 隼斗は片手で構えたP226の引き金に指をかけ、
 ――トリガー。
 火薬が爆ぜ、弾丸が放たれる。



 青年の視界にはスローモーションの世界が広がっていた。
 ――限界まで集中すれば通常の100倍の速度で世界を見ることができる。
 同時に、通常の人間の倍近い基礎身体能力をもって、常人の認識を超える速度で剣を振り、瞬く間に銃弾を弾き、敵を切り伏せる。
 それはマナにより自らの身体を進化させ、青年が新たに得た力だ。
 眼前には迫る銃弾。高速認識下では鉛のように重い腕を全力で動かしながら、跳弾に必要な位置まで剣を持っていく。
 ……1つ!
 一撃目、正面から胴を狙ってきた弾はギリギリで傾斜角を付け、右へ逸らしきった。
 だが次弾、続けて放たれたものは、左肩へ。
 ……間に合わない!?
 剣で弾くには近すぎる。
 判断は一瞬。身を捩り、右へ振ってギリギリで躱す。
 だが、避けたその場に迫るのは3発目。
 真正面から、胴体へ突き刺さる軌道。
 ……しまっ――
 見えているが、身体が間に合わない。
 左にかわした勢いのまま、身体を持って行くが、
「が――ッ」
 左肩に鈍い感覚。
 直後に、血が流れ出る熱さと激痛を感じる。
 集中が途切れ、世界が通常の速度に復帰する。
 ……不覚……!
 人間を甘く見た報いか、と
 まさか、魔術による補正がなくとも、進化した自身の速度についてくる人間が居るなどと想像も及ばなかった。
 起き上がり、痛みの中で再度集中。追って放たれる銃弾を弾きながら青年は再度思考する。このままではいけない、と。
 下手をすれば本当に殺されてしまう。そうなれば、修復の終わっていない世界樹の種は抵抗もできずに破壊されてしまうだろう。それだけは絶対に避けねばならない。
 ……ならば、どうする?
 時間的には既に『世界樹の種』がマナを規定量を溜め込んだ時間だろうが、『傷口』から流出が続いているため、発現には至っていない。
 ……やはり自動修復機能だけでは限界があるか。
 自身の手で魔術回路の再接続をしなければならない部分も多く残っている。
 勝ち目のない戦いならば、最低限の牽制に止め、修理を続行すべきだ。
 ……人間相手に背を見せるのは癪だが……
 自分には大義がある。と言い聞かせ、青年は後方へ飛び退き――

 そして気づいた。“そこ”に、もう一人の人間がいたことに。

 その時、彼はようやく思い出した。
 “人間”とは、どういう生き物だったかを。



「和真!!」
 叫ぶような鋭い隼斗の声。
 それだけで和真は何が起こったのかを悟った。
 ……気づかれたか!
 振り向けば、“根”と“卵”の接続部分で作業をしている和真に真っ直ぐ向かってくる『賢者』。
 隼斗が拳銃を発砲して牽制し、『賢者』は度々振り返りながらその弾を叩き落としているため速度は落ちているが、
 ……すぐにここに辿り着かれるだろう。
「くそ……っ」
 対する和真はC4をようやく半分設置し終えたところ。
 ……やはり間に合わなかったか!
 今までどおり引っかかるバカで居て欲しかったが、と思うも詮無いこと。
 戦闘のド素人どもとは言え、人間と同じくバカはいるし勘のいいやつもいるということだ。
 手早く起爆用の信管を回収、腰の自動拳銃を引き抜き、“台座”から反対側へ飛び降りる。
 傾斜角30度の“根”の表面を飛び跳ねるように降り、
「逃げるな卑怯者がァ!」
 咆哮にも近い絶叫に、和真はうんざりした気分になる。
 ……追ってくりゃ普通逃げるだろーが!
 和真は格闘も射撃もそこまでセンスがいいわけではない。
 器用貧乏。平均的に、凡庸に優秀だからこそあの部隊にいるのであって、あくまで人間の枠からは外れない。
 間違っても人外と生身で打ち合えるような能力などないのだ。
「シエラ1よりシエラマザー、作業中に『賢者』に捕捉された。現在の作業進行度はおよそ50%――」
 逃走しながら報告。追ってくる『賢者』が“根”に隠れ、どちらから来るのか判断がつかなくなる。
「隼斗、敵がどっちから来るか解るか?」
《奴はいまこっちから見て右だ……ちょこまかと――ンならァ!!》
 返答に、なら反対のこちらから見て来るのは左、逃げる時はこちらから見て右に、と瞬間で判断。
 態勢を整えながら、聞こえてくる三連の発砲音がM4のものに変わっていることに気づく。
 ……頼むぞ、隼斗……
 壁越しに反射して聞こえる三連の発砲音を聞きながら、自らの生死が隼斗に懸かっていることを思う。
 それが、否応なく魔物に怯え建物の陰に隠れていた日々を思い出させ、余計に和真の意識を追い詰めていく。
 ……くそ。
 ここから逃げ出したい気持ちと、やけくそで飛び出したい気持ちを抑えながら、
《シエラ3からシエラ1へ。シエラ2はまだぶしゃあできないんですか?》
 唐突にヘッドセットに届いたのは八代からの通信。
 その気の抜けたような声にわずかに脱力しながらも、
「まだだ。抑えてくれてはいるが……」
《和真、そっちに行った! 逃げろ!!》
「――ッ!?」
 警告に、構えていた方向へ全力で走る。
 左手から敵の影が見える直後に右手の“根”の影に飛び込む。さらに距離を取ろうと離れた所で、銃声。
《大人しく……しやがれッ!》
「貴様こそ――!」
 さらに響く声と、幾度かのナイフの打ち合う金属音。
 なんとか裏で格闘戦に持ち込めたようだ。
 だが、それもいつまで持つか……
《了解しました。つまり戦況は芳しくないと。……シエラ1、敵を侵入口まで誘導できますか?》
 侵入口――つまり上からぶち抜き、和真たちが着陸した地点だ。
《このままでは埒があきませんでしょう。援護しますよ》
 やってみる、と返しかけた口がふと止まった。ふと浮かんだ不安。それは、
「……まさか『ルクス』を撃つ気か? こっちは生身だぞ!?」
《知ってますよそれくらい。しつれーな》
「ならどうするつもりだ。誘導した所でM4じゃろくなダメージにも――」
《私が誤射なんてヘマやらかすと?》
 簡潔な答え。
 生物に対しての有効威力範囲が広いプラズマでもなお“外さず、誤射もありえない”という八代の自負。
 ……信じるしかないか。
 八代が明言したときは、絶対の自信があるときのみ。
 ならば、今回もそうなのだろう。
「……了解。信じるぜ」
《どーも。では、準備は完了してるので後は任せました》
「……聞こえていたな隼斗? これからプランを伝える。合わせてくれ」



「あいよ了解。好きにやってくれ」
 何だ? と青年は疑問する。
 戦闘の中、突然相手の人間がこちらに向かってわけのわからないことを口走ったのだ。
 だが、すぐにそれが通信であることに思い至る。
 聴覚を強化しているわけでないので、相手の応答までは不明だが、
 ……何を企んでいる?
 想像もしないような卑怯な手をいくらでも使ってくる奴らだ。
 警戒しながらも、眼前の強敵と2、3度刃を打ち合い、
「うわあああああ!! 畜生ォオオオ!!」
 背後。突然の絶叫が響き渡った。
 同時に銃声。
 弾丸が飛来するが問題にもならない。全て弾ききる。
 その視線の先にいたのは、先ほど自分が狙っていた、『世界樹の種』の側にいた敵。
 逃げ回っていたのではなかったか、との青年の疑問に、
「ちっ、あのバカ――」
 その言葉で理解した。
 戦場に出て以来、戦いの中で突然発狂する敵の兵士をたまに見かけたことを思い出した。
 ……なるほど。奴もそうなってしまったのだろう。
 青年はそう結論づけ、
 ……なら、一思いに殺してやる。
 同じく突っ込んできた人間に気を取られたのか、敵の攻撃の手が止んだ隙に、眼前の人間を振り切り、
 跳躍した。



「う、……うわあああああ!?」
 飛びかかってきた『賢者』を視認し、和真は怯える演技とともに一気に背後へ駆け出す。
 ……引っかかった!
 さすがに普通の囮には引っかからないだろうと踏み、戦闘中にストレス障害で発狂した体をとったのだが、
 ……上手く行った。
「このっ……このぉ!」
 和真は振り向きながら手にしたM4で適当に弾をばらまく。敵の気を引くための演技だ。時間稼ぎにでもなれば御の字というところだろう。
 敵は弾を弾きながら常識外れの速度で和真に迫ってくる。
 今までの動きを見ながら予想はしていたものの、
 ……速い!
 想定以上の速さに、間に合うか、と思いながらも全力で走る。
 同時に、必死に応射する。
 誤射を恐れてか、隼斗からの援護はもう途切れていた。
「無駄だ――」
 立て続けに火花とともに弾かれる弾丸。
 撃っても撃っても速度は落ちず、一直線にこちらに突っ込んでくるそれに、
「ひ――っ」
 演技ではなく、本心からの怯えの声が漏れる。
 生物としての本能的な恐怖だ。格上の生き物から逃れるべく、遺伝子に刻み込まれた恐怖。
 それに背中を押されるように必死で和真は走る。
 だが、速度差は明白。瞬く間に距離が詰められてゆき、
「くそっ――クソぉ!!」
 和真が撃ち放つ銃弾の間をかいくぐり、
「――ふん!」
 剣先が、疾走った。
「が――っは」
 右胸。
 心臓を狙った一撃から半ば無意識に身を引いて庇い、同時にボディアーマーが間一髪で刃の侵入を防ぐ。
 しかし、人外の速度で突き出されたそれは相応の打撃力を持って和真の身体を吹っ飛ばした。
 僅かな時間宙を舞った和真の身体は、すぐに地面に叩きつけられ、
「っ……!」
 勢いのまま転がり、駐機してあったEAに叩きつけられ、止まった。
「く……ゲホッ、ガホッ」
 痛みのあまり意識がボヤけるが、起き上がりなんとか視界を持たせる。
「手こずらせてくれたが……ここまでだ」
 受け身を取りながら、意地でも手放さなかった銃を構え、見れば、そこには剣を構え歩み寄る『賢者』。
「死ね。この世界を汚す害虫よ――」
 大仰なセリフと身振りとともに『賢者』が足を踏み入れたそこは、侵入口の真下。
 それに気づいた、和真は思わず笑みに頬を歪め、
「……ざまぁ、みやがれ」
 放った言葉。それを『賢者』が疑問に思う前に、
 閃光。
 それが和真の視界を灼いた。

 *

 放たれた光は、続けて3度。
 ちりちりした熱とともに、光はどれも正確に眼前の『賢者』を瞬く間に灼き――消し飛ばされた『賢者』は、僅かな灰を残しその場に崩れ落ちた。
《ほら、何ともなかったでしょう?》
 やや自慢げに、そう言う八代。和真もそれに対しては素直に、
「ああ。そうだな、助かった」
 賞賛の言葉とともに、和真は一息。
 同時にじわりと嫌な痛みが胸から刺さる。
 ……間違いなく肋骨がイッてるな、これ。
 自身の体だ。自分のことは自分がよく解っている。
《チッ――最後に持ってかれたか》
 そんななか、耳元から届くのは隼斗の悪態。再生されると解っていても、自分の手で無力化したかったのだろう。
 だが、そこに茶化すように八代が、
《いえいえ。そちらでぶしゃあできていれば私は手を出さなかったんですがね?》
《あンだと?》
《まーぁまぁ、とりあえず》
 そこに割り込む隊長。
《トドメがまだだよね? 破片が残ってたら再生するのが『賢者』だし……由美ちゃん、どう?》
《出力ギリギリで撃ったから結構破片が残っちゃいましたね。冷却剤も少ないですし、再生したら一気にトドメと行きましょうか》
 そう言う八代の言葉に和真も改めて“残骸”を見る。
 そのほとんどが炭化し、幾分かは生体組織も残ってはいるが、狙撃しながら消し飛ばすには細分化されすぎた“残骸”。
 これならば、一度再生するまで待ち、残骸が一箇所に集まった時点で高出力のプラズマにより吹き飛ばすのがセオリーだ。
 だから、今回も再生するのを待ち……と考えた時点で気づく。
「いや、ちょっと待て」
 まず放つのは、疑問の言葉。
 問いかけながら時間を取るが、しかし状況は変わらず。
 そして、恐る恐る口にする。
「再生していないぞ、これ」
 起こりうるはずの事態が、起こりえなかったという事実を。



《やっぱり蘇生しないかぁ》
 数分が経過した後。
 プラズマに灼かれ、炭化した“それ”が何故か蘇生を開始せず、暫定的に戦闘は終了となった。
《実際、拳銃で一発入れた後も再生してなかったみたいだしな》
 隼斗が言うには、いつもならあっさり回復するはずの傷なのに、ずっと血が止まらず、動きもやや鈍ったままだったと言う。
《なるほど……マナ・リアクターが使えないのと、何か関係があるのかな?》
「恐らく、敵にも有効なジャミングのようなものだったのでしょう……」
 隊長の疑問の声にとりあえず答えてみるも、今の和真にとってはどうでもいいことだ。
 そんなことよりも、
 ……痛ぇ。
 何とか起き上がり、愛機に背を預けて座っているが、動かずともじわじわくる痛みが和真の身を刺す。
 さっさと帰って一刻も早く病院のベッドで寝たい。
《ま、なにはともあれ、大人しくなってくれたならそれに越したことはないね、うん》
 などと、和真がそんな隊長の独り語りを一方的に聞き流しながらぼんやり待っていると、作業をしていた隼斗が“卵”の側から降りてきた。
 伸びをするように肩を回しながら和真の座っている側に向かってくる隼斗に、
「よう。終わったのか?」
「ああ。何とかな……爆弾てのはなんかこう地味で趣味じゃねェんだが」
「趣味で仕事を語るなよ……っ痛」
「傷にさわるなら無駄口叩いてンなっての。……こちらシエラ2、爆薬の設置完了」
《シエラマザー了解。派手にやっちゃって!》
「シエラ2了解」
 そこで通信を切り、隼斗は手にした起爆装置のロックを外し、
「……さて、見てな。花火だ」
 スイッチを押し込んだ。
 直後に“卵”の足元で爆炎が上がり、轟音が立て続けに響く。
 “卵”と“根”を繋ぐ接続部分が次々に破断され、支えが崩れ落ちる。
 同時に爆発の勢いに押され“卵”が大きくゆらぎ、落下。
 炎上しながら、崩落とともに“卵”はその形状を維持できずに徐々に枯れるように色と光を失う。
「やった……のか?」
 出来過ぎのような光景に、思わず浮かぶ疑問。だが、
《マナ、拡散パターンに移行確認……やった、やったよ!!》
 拡散パターンに移行……つまり、卵が機能を失い、溜め込んだマナを吐き出し始めたということ。
 それは、本当にあの構造物を破壊できたということで。
 ……やったんだ。ついに。
《やりましたね! 皆さん!》
《一時はどうなることかと思いましたが》
「これでダメなら、文字通り骨折り損だからな」
「ハッ、そりゃあそうだ。これで手持ちの武器は本当にスッカラカンだからな」
 そう本当にこれで破壊できなければ、もう打つ手はなかったのだ。
 綱渡りに次ぐ綱渡りで、どうにかこうにか手にした勝利。
 ……確かに。司令のヒゲも引っこ抜きたくなる。
 出撃前に隊長が言っていた軽口を思い出し和真は思わず一人苦笑する。
 むしろヒゲ程度で済むと思うなと言いたい気分だ。
《まま、とりあえずこれで晴れて撤収できるね。装備はできるだけ回収したいんだけど……マナはまだ使えない?》
「そうですね、確認してみましょう。……隼斗、EAのリアクターは起動できるか?」
「了解。試してみる」
 そう言って、隼斗をEAに向かわせる。
 ……これでリアクターが動くようになっていれば、万々歳なんだが――
 思い、安心しきったそこに。
《危ない!》
 唐突に飛び込んだ、八代の警告。
 同時に閃光が奔った。


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