AM10:40>ファイナル・フェイズ
「じゃあ。行きますよ」
《どうせ使い物にならなくなるんだから派手に行こう》そう隊長の宣言で決まった、残りったウルティマ・ラティオの使用方法。
それは即ち――床抜き。
どうせウルティマ・ラティオが『地下でマナを集めてるらしき謎の構造物』の破壊に使えないのなら、いっそのこと床抜きに使い、その分のプラスチック爆薬を目標の破壊のために温存しておこうという案だ。
ぶち抜くべき残りの床は恐らく26層から29層まで4枚。
おそらく相当な勢いで損耗し、外装だけでなく本体のフレームにもガタが行く可能性もあるが、隊長いわく《まだ『アクサ』と『リィレ』の予備パーツは一揃いある》ということで、
〈モード:ウルティマ・ラティオ。追加設定:リアクター出力、衝撃モード〉
和真は『アクサ・ヴォルン』を構えていた。
ターゲットは、事前に設定した床の中央。帰還時に一直線の脱出口となるよう、今までの侵入口の直下だ。
「まさかウルティマ・ラティオで土木工事をすることになるとは思いませんでしたよ」
《ある意味まっとうな使い方だよね。究極兵器は地形すら変える! 的な感じで》
「元々は敵を倒した副作用でしょうそれって……。では、まずは『アクサ』から、行きますよ」
目標の床からかなり離れた場所から、大出力スラスターを起動しながら投擲態勢。
ウルティマ・ラティオ装備時は巨大すぎて手持ち武器として使えず、またこの形態では最大加速時にポテンシャルを一番引き出せる機体なので、やむなし、である。
……かなり間抜けな姿だよな。
などと思いながら和真は一気に『アクサ・ヴォルン』を振りかぶり、
「飛べ――!」
〈テイク・オフ〉
ぶん投げた。
宙に飛び出した槍は、一直線に天井近くまで飛翔した後、空中で補助スラスターを吹かせ刃を真下に転換。
一気に再加速。
重力加速に大出力スラスターによる馬鹿げた推力を得て、
激突。
1枚目の床が衝撃とともに崩壊し、大穴が空く。
そのまま貫通し、2枚目。
遠くなった衝撃音と振動が次の階層の床を抜いたことを示し、連続してさらに破壊音に次ぐ破壊音。
4度の振動と崩落が、この後に待つ障害の全てが排除されたことを示していた。
《すごい、いきなり4層全部……最初からこうしてたらよかったんじゃないですかね……?》
「許可が下りるかこんなアホな使い方」
千紗が思わず口にした疑問に、和真は至極冷静に返す。
『アクサ・ヴォルン』、そしてウルティマ・ラティオは最新の試作兵装だ。
使い潰すには使用した結果として、ある程度の実証データが要求される。
つまり、対『賢者』武装として量産の価値がある武装なのかどうか、だ。それを延々床の破壊なんぞで消耗する訳にはいかない。
稼働中の工場が人類の生命線となった現在、武器に使うラインはどこまでも効率的に運用されなければならない。
特に最新鋭のマナ・リアクターを搭載する武装なら、なおさらだ。
和真たちが手にしているこのリアクター一つで、万単位の人口を支えられるエネルギーを生み出せるのだから。
無駄遣いは絶対にできない。
などと考えながら、和真は『アクサ・ヴォルン』の帰還を待つが、次の瞬間、
「…………!?」
ステータスが機能停止に変わった直後、通信途絶となり、それきり反応が停止する。
「アクサ・ヴォルン、応答しろ、おい!」
幾度か和真が呼びかけるも、無反応。
《……もしかして、壊れた?》
「それにしてはおかしいですよ。ぶつけた直後、外装はともかく、本体のフレームやAIに大きな異常はありませんでした」
となれば、何らかのジャミングか、機能障害か。
そもそも『賢者』がどんな手を使ってくるか、人類には未知数な部分が多い。何があってもおかしくはないだろう。
「最下層に何かがある……と見るべきでしょう。俺達の武器を封じる何かが」
《用心に用心は越したことがないってことだね……ウルティマ・ラティオを使っちゃったのも、ある意味正解だったかも》
《とりあえず、下を見てみませんか? 『ヴィタリタス』の望遠レンズなら、下になにか見えるかも》
そう言いながら、千紗は『ヴィタリタス』を動かす。
4つ足の巨体が前進し、縁に手をかけ、穴から下を見下ろした。
*
野上は、『ヴィタリタス』コックピット内のモニターから地下を見下ろしていた。
望遠レンズの拡大と同時に大きくなる最下層の画像は、うず高く積もる瓦礫の山で、
「あ。あれ『アクサ・ヴォルン』かな。瓦礫の中に埋まってるっぽい?」
瓦礫の山の中から、長い柄が突き出しているのが見え、野上はすぐに映像を和真へと回す。
「そんなに簡単に埋まるものなんですか?」
同様に視認した同乗者たる千紗は不思議そうに言うが、応えるように和真が、
《……おかしい。瓦礫を回避するような機動データを事前に読み込ませておいたはず。それに、投擲する関係上、『アクサ・ヴォルン』のAIデータリンクは電波でなくマナを用いた通信だ。埋まった所で通信不能になるようなヤワなものじゃない》
「となると、やっぱり通信遮断……いや、スラスターが動いていないところを見るとAIか、機能そのものが止まってるっぽいね」
《じゃあ、その手の魔法っぽい術か何かを使われたってことですか……リアクターを止められたら、俺たち、成す術ないですよね》
「うん。間違いなく万事休すだね」
和真たちが装着しているEAも、『ヴィタリタス』も全てマナ・リアクターの馬鹿げた高出力があってこそだ。
予備として積んである補助バッテリーでは生命維持がせいぜい。
……ならば、どうすべきか?
隊長としていかなる判断をすべきか、野上は考える。
《玉砕覚悟で降りるか? 俺はそれでも一向に構わねェぜ》
命知らずの戦闘狂が事も無げに言うが、隊員全員の命を預かる野上にとって、それは最も取るべきでない選択肢だ。
最終的にはそうせざるを得ない場合もあるだろうが、
「バッカそれはあくまで最後の手段。……アンタや由美ちゃんのウルティマ・ラティオが健在なんだから、まだまだ出来ることはあるよ」
幸い、今打てる手はまだ残っている。野上が目指し、取るべきは全員が確実に生還できる手段だ。
「よっし。まだ最後の『賢者』も顔出しに来ないし、今のうちにやれるだけのことやるよ!」
頭の中でプランをまとめた野上は、再び明るい声で通信に向かって指示を飛ばす。
それはいつものように、野上自身をも奮い立たせるようでもあった。
*
「行くぜ――ッ!!」
叫びとともに、隼斗は巨大な柱のような『リィレ・エンス』を抱えて穴に飛び込む。
同時にEA及び『リィレ・エンス』のスラスターを全開に。一気に加速を付け、1つ下の階層である27層の空間に飛び込む。
隼斗の視線の先には魔物の群れ。
リアクターの扱うマナに引かれ、光に惹かれる蛾のように魔物が宙に居る隼斗に向かって集まりだしている。
「邪魔だ退けェ!」
その中でも目立つ巨体。棍棒を手にした
不意に後頭部を蹴り飛ばされた巨体はゆっくりと傾き、周囲の魔物を巻き込み、押しつぶしながら転倒。
うつ伏せに倒れた巨体の背に着地し、隼斗は逆手のまま『リィレ・エンス』の機甲を突き込む。
〈攻撃システム変更:対魔物モード〉
体液を飛び散らせながらえぐりこまれた大剣が、蒼いマナの光を帯び、
〈攻撃形態:マナ打撃。実行〉
一拍遅れて打ち込まれたマナが一つ目の巨人を爆散させ、魔物の群れの中に空白ができる。
動きは止まらず、隼斗は振り上げるようにスラスターをもって大剣を持ち上げながら、
〈ウルティマ・ラティオ:ブレード展開。使用限界まで7秒〉
『リィレ・エンス』の先端からプラズマビームの刃を発振。
剣を腹の高さまで持っていき、角度は水平。
足裏のスパイクを床に打ち込み軸を固定し、振り回す動きが与えるのは遠心力。
EAの腕力に、剣そのもののスラスターの噴射力を加え、
一閃。
光とともに爆発的な推進力が吐き出され、描かれる機動は円弧。
「おおおおおお――」
旋回のまま、30は下らない数の魔物をまとめて薙ぎ払っていく。
閃光の尾を引きながら振り回される刃は、超高熱量で焼き払うように獲物を喰っていき、
「――る、あァ!!」
そのままたっぷり2周。隼斗を中心に半径9メートル周囲の敵を残らず駆逐。
後、逆噴射をかけ強引に停止する。
……フン。手応えのない。
血と肉を裂く手応えが好きな隼斗にとって、プラズマはただの肉の無駄遣いにしか思えない。
だが同時に、ここは己を抑えるところだ、と隼斗も理解している。
ビームを収めた『リィレ・エンス』は、同時にそれまで溜まった熱を吐き出すように、気化した冷却剤の噴煙を上げた。
〈冷却完了――冷却剤残量10%を切りました。これ以上の使用はブレード発振器に過剰なダメージが――〉
「ワリィな『リィレ』。残りの冷却剤は全部八代ンとこだ。このまま行くぞ」
言うと同時。隼斗は再び『リィレ・エンス』のスラスターに点火。
縦に振りかぶる動きから、AIにその意図を告げる。甚だ不本意だが、と前置きの後、
「衝撃モードだ。床をぶち抜け!」
〈ウルティマ・ラティオ:衝撃モード。プロファイルAT-1021をロードします〉
加速のまま、大剣を床に叩きつけた。
激突は破砕となって、足場ごと轟音と崩壊を引き起こす。
支えを失った瓦礫とともに隼斗は降下し、足元の魔物を崩落に巻き込みながら着地。
〈ウルティマ・ラティオ接続ギアA3破損。ブレード冷却パイプ損傷〉
……チッ、そろそろ来たか。
『リィレ・エンス』のウルティマ・ラティオは近接格闘戦仕様。
斬る、突くなどの衝撃の上、極端に大出力なスラスター機動が相当な負荷を機体にかけている。
素体との連結部分は、頑丈に造ってあっても一番脆い部分だ。そろそろ限界ということだろう。
「まだ持たせろよ『リィレ』。……もう一仕事だ!」
〈了解。ウルティマ・ラティオ:ブレード展開〉
言いながら周囲の敵を見る。28層も同様に、隼人達のマナを嗅ぎつけた魔物が続々と集まってくる。
だから、成すべきことも同じ。大剣を構え、
「死ね――ッ!」
再び光が円弧を描き、プラズマの刃が周囲の魔物を一掃。
動植物、種族入り混じった魔物の集団が一様に溶断され、炭化し蒸発する。
そしてスラスターによる制動、再度冷却剤の白煙を噴いた所で、
〈……冷却剤、残量ゼロ。接続ギアB4破損。プラズマ発振器異常過熱。これ以上の使用は危険です〉
「もう少し付き合ってもらうぞ――衝撃モード」
〈衝撃モード。プロファイルAT-1021を――〉
確認と並行して隼斗は加速のまま目的地へ向かう。
隊長が指示した目標地点はここから少し奥。
「もう一丁!」
26層に開いた穴から、“一直線”に繋がるよう、
「――砕けェ!!」
激震。
大剣が叩きつけられ、同時にマナリアクターから発生した衝撃波が構造体に直に伝わる。
損傷により先程よりも威力は落ちていたが、石造りに似た床はたまらず瓦礫と化し、さらに下……29層に落下する。
だが、そこで、
〈ウルティマ・ラティオ接続ギアD1、C2、B2破損。エネルギーバイパス回路に異常発生、出力43%低下。パージを推奨します〉
とうとう機体が負荷に耐えかね、断末魔の如きエラー報告が届く。
「チッ……やはり」
ほぼ隊長が予測した通りの結果に隼斗は舌を巻きつつ、しかしここまでか、という歯痒い思い。
後一回は行けるだろうが、そうすれば『リィレ・エンス』本体までダメージが行きかねない。それでは本末転倒だ。
「いいぜ、パージしな」
〈了解。ウルティマ・ラティオ、パージします〉
指示への返答と同時に、立て続けに爆砕ボルトに点火。破裂音とともにウルティマ・ラティオの機甲がその構造を崩し、分解する。
外装が剥がれ落ち、周囲に増設されたコンデンサや空になった冷却タンクがぶちまけられ、二本並べて連結した『リィレ・エンス』本体がむき出しとなる。
隼斗はそれを引っ掴み、連結を解除。
元の双剣として再装備し、周囲を見る。
敵を駆逐し――と思うが、意外にも29層には魔物はほとんど存在しなかった。
居たとしてもその活動は非常に鈍く、また小型の固体しか存在していない。
個人的には不満だが、作戦上は好都合。
「なら、もう一撃――」
逆手に持ち替えて地面を突こうとした、その時。
〈『リィレ・エンス』マナリアクターに異常発生。1号機、2号機、出力88%ダウン〉
「ッ……何だ!?」
突然吐き出されたエラー。だが、『リィレ・エンス』本体には目立った損傷はない。
何故、と思うがすぐにその回答は提示された。
〈周辺のマナ濃度が急速に低下。マナの充填が困難となっています〉
……そういうことか!
即座に隼斗は理解する。『アクサ・ヴォルン』が地下で機能を停止した理由はこれだ、と。
「シエラ2よりシエラマザー。29層のマナ濃度が異常に低く、リアクターが機能しない。29層の破壊は困難と判断する」
《……シエラマザー了解。なるほどね、そういうこと……解った。後はこっちで何とかするよ。射線からなるべく離れておいて》
「シエラ2了解。敵もいないんでさっさと物陰に隠れてますよ」
自らの任務が果たせないことに僅かな悔恨を覚えるも、やむを得ない。
あとは、八代の仕事だ。
……上手くやれよ、根暗女。
*
《あー……くっそー、ちょっと考えれば解ったはずなのになー 何ですっぱり見落としちゃうかな……》
26層。
隊長のボヤキを聞きながら、八代は『ルクス・ペネトランス改』ウルティマ・ラティオを構えていた。
角度は斜めマイナス40度。
『アクサ・ヴォルン』が開けた穴から砲身を下げ、狙うは一直線にマナ反応源の中央。
「ぼやいていても仕方がありませんよ。後は撃つだけでしょう。……成功は保証しかねますが」
構えながら八代は言う。
隼斗が『リィレ・エンス』で視界と射線を開け、対象を認識した上で26層から目標を狙い撃つ……
その作戦が、土壇場で頓挫したのだ。
追加で空いたのは2層分。最後の最後……29層と30層を隔てる壁が空かなかった。
ビームの減衰は大分マシになるだろうが、肝心の視界が全く塞がったままだ。
《そうだね……こっちもちょっと手は打ってみるけど、後は由美ちゃんに任せるしかないね。お願い、何とかして!》
「了解。お願いされました」
『ヴィタリタス』が持ってきていた残りの冷却剤は限界までこちらに回したが、予備の砲身はない。
恐らくフルパワーで照射し続けるならギリギリまで粘って6秒が限度だろうな、と八代は判断する。
幾度かの試験や戦闘を繰り返してきたテスターとしての勘だが、積み上げた経験から来る勘以上に信頼出来るものはない。
6秒。
それまでに、マナ反応だけを頼りに、目標を破壊しなければならない。
……本当に出来るんでしょうか。
できたらびっくりですよ逆に。と冷静な自分が言うが、それでも八代はやらねばならないのだ。
スコープにサーモグラフィよろしくグラデーションで表示されたマナ反応を睨みながら、八代はトリガーに指をかける。
〈コンデンサ内エネルギー、フルチャージ。射撃スタンバイ〉
AIは既に射撃準備が完了する旨を告げ、隼斗の待避は完了している。後は自身の決断のみ。
どこを撃つか。
一発勝負。ならば、ド真ん中しかない。
だが、構造体の、どこが中心なのか――そこまで考えた所で、
《隼斗が簡易ソナーでデータを取ってくれたよ! いま、データをそっちに重ねるね!》
隊長からの通信とともに、スコープに重ねて表示されるのは、ソナーのデータを突貫で加工したであろう粗いワイヤーフレームの画像。
そこで示されるのは最下層のおおまかな形。
……これは――
そこには広大な空間と、“卵”があった。
地面から伸びる台座の上に、大きく鎮座する“卵”。
マナ反応は正に、その“卵”の中心から発している。
「……!」
ならば、狙うは“卵”。それだけだ。
そうと理解すると、即座に照準補正をかける。
コンピューターの自動補正なしのマニュアル照準。
構えながらイメージするのは、砲の先、そこから伸びる一本のライン。
そして、それが獲物に食いつく、絶好の位置を。
「――――」
……捉えた。
確信と同時にトリガー。
コンデンサから大量の電力が供給され、プラズマが砲身で加速。
閃光が迸った。
*
「何を――」
青年は繰り返し起こる振動に不穏なものを感じていた。
『世界樹の種』の発芽のため、青年は
ならばせめて時間稼ぎに徹し、数人でも道連れにした上で、命に代えても発芽を達成させる覚悟でいた。
奴らは『世界樹の種』を潰しに来たはず。となれば、どれだけ愚鈍であってもタイムリミットにも気付いているだろう。一刻も早くここに攻め込んでくるはず。
だが、最初に天井を突き破り槍が落ちてきてから、いつまで経っても敵が降りてこない。
それどころか、未だ26層で何かの動きをしている。
時間が稼げればそれでいい。だからこの状況は、青年にとって都合のいい状況のはずだ。
だが、このもどかしさは何だ? と青年は自問する。
……奴らは、何をしようとしている?
胸騒ぎを抑えきれぬまま、振り仰いだ『世界樹の種』。
暖かな翠の光を放つそれが、
火を、噴いた。
天井を突き破り、吹き出した光が『世界樹の種』に突き刺さったのだ。
「な――ッ!?」
貫通した光は『種』の直撃した部分をグズグズに溶解。
内部構造を蒸発させ、反対側の表層を破り一気に抜ける。
プラズマの余波が表面を灼きつくし、丁寧に編み上げられてきた魔術回路は一瞬にしてズタズタにされる。
4秒間の光は、15年かけて編みあげられてきた『種』に致命打を与えるに十分だった。
「そんな……まさか……」
光が引いた後、青年は半ば放心しながら『世界樹の種』を見上げる。
灼かれ、崩れた魔術回路からマナが漏れ出し、今にも輝きを失いそうな『種』。
世界の源たるマナが求め、それを識る選ばれた『賢者』が、人間を駆逐するべく今まで育ててきた『世界樹の種』。
20年前、成し遂げられなかった願い。それが、あと一歩の所まで来ていたのに、
「こんな……こんなことで……」
ろくに戦うことも、守ることも出来ないまま、一方的に。
「……認めるか……」
こんな結末など、
「――認めるか!」
叫び。魂から湧き上がるような咆哮。
……失うものか。
怒りのまま、ただ思うのは唯一の希望。
そして、失わせるものかという、強い執念。
「ッ――――!」
第7感たるマナの感覚を掴みながら、砕けそうになった『種』を包み込むようにマナを集める。
漏出し、拡散していくマナを再び『種』の一箇所に。
失われた魔術回路を新たに繋ぎ直し、傷を塞ぐ。
……『種』は、現にまだここに在る!
青年の執念に呼応するかのように、『種』は加速度的にその傷を癒していき、
――そして、『種』は輝きを取り戻し始める。
*
〈冷却剤残量ゼロ。砲身過熱。プラズマ加速器に異常発生。ウルティマ・ラティオ使用不能。パージを推奨します〉
リミッターを解除した、ウルティマ・ラティオの全力射撃。
今度こそ冷却剤をすっかり使い果たし、砲身の一部は赤熱化し、薄く煙を上げている。
八代がギリギリまで照射時間を稼いだ結果、砲身はあと一歩で暴発するレベルにまで損傷していた。
……よく、ここまでやれたものだ。
和真はそれを見て思う。
機体を熟知し、なおかつセンスがなければこんな無茶はできない。
これでやれていなければ――
《だめ、流出はしてるけど、マナが拡散パターンには達してない……まだ生きてる!?》
「クソッ――!」
ここまでやってもダメなのか、と和真は歯がみする。
ならば、
《やっぱ降りなきゃダメってことなんですか……?》
弱々しげに千紗が言う。確かに和真にも、それしか手は思いつかない。
『アクサ』、『リィレ』は起動不能。『ルクス』も、ウルティマ・ラティオがなければ十分な火力とは言いがたい。
《まぁ、それも手ですけど――》
言いながら、『ルクス・ペネトランス改』のウルティマ・ラティオを分解する八代。
赤熱し、破損した砲身は、爆砕ボルトによって連結部分が切り離されることで瞬く間に解体。
そして、コア部分から狙撃連結モードのまま接続されていた『ルクス・ペネトランス改』本体を取り出す。
八代はそれをおもむろに構え、
《とりあえず私はここから撃っとくことにします》
射撃。
プラズマの光弾が空洞に吸い込まれる。
光は、先ほどと全く同一の軌道を奔り、そして“卵”に吸い込まれた。
《スコープから見たところ、ツタのようなもので再生しているみたいです。とりあえず邪魔しておきますが、行くなら早めに行ったほうがいいですよ》
淡々と述べながら、八代は2射目、3射目を撃ちこんでいく。
何でもない風にしているが、29層に空いた穴は、ウルティマ・ラティオの口径である、たった40センチ。
そこに、全くブレずに弾を抜けさせ、その先の目標を撃ちぬいていっているのだ。
その光景にしばし唖然としながらも和真は、
「了解。なら俺が行ってくる。『アクサ』も気になっていたし……隊長、C4をくれ」
《……了解。気は進まないけどね。よいせっと》
答えながら、隊長は『ヴィタリタス』のアームで背部コンテナからプラスチック爆弾、『C4』を取り出す。
『アクサ・ヴォルン』が貫いた4層分。その破壊に使用するはずだった余剰分だ。
《多分下じゃリアクターは使えないし……無事着陸できるかどうかも――》
「手作業でC4が使えればそれでいい」
《和真くん……》
珍しく弱気な隊長の声。
それに、和真は何か言葉をかけねばと思うが、その前に、
《なら、俺も付き合うぜ》
《隼斗くん!?》
《二人で行った方が生存確率は高まる。それに、目の前に『賢者』がいるなら殺しに行くのが俺の主義だ。剣を持ってここで待ってるだけなんざゴメンだね》
「……だそうだ、隊長。許可は貰えますね?」
《…………わかった。二人共、無事帰還すること!》
*
着陸は相当ハードだった。いや、着陸とも言えない、ほぼ落下同然の着地。
「く……やはりか」
和真は悪態をつきながら、状況を確認する。
思った通り、マナ・リアクターが濃度不足でエラーを起こし、装着したEAは予備電源のバッテリーに切り替わっている。
おそらく、何らかの妨害術が敷いてあるのだろう。
何にせよ、スラスターはマナの供給を絶たれ、機体は推力を失い落下。
和真は29層付近から、ほぼ10メートルの高さを落下することになった。
それは、EAがもはや頼りにならないということ。
《シエラ2、着地完了……ほとんど落ちただけだがな》
通信が入る。事前に渡されていた、バッテリー式の個人通信機を通じたものだ。
「こちらも同様だ。機体の予備電源は生きているな? ロック解除、銃を持って機外に出るぞ」
《了解。たまには生身でってのも悪くねェな》
……そう、ここから先は生身の勝負だ。
人間離れした『賢者』。ここにいる最後の個体は恐らく青年型。
勝てる自信はない。だが、やらねばならない。
……訓練は受けているが、役に立つかどうか。
予備電源が生きている内に、機体のロックを解除。自身の体から取り外していく。
同時に機体が変形を開始。上半身の装甲が持ち上がり、後ろへ下がっていく。
一気に視界が開け、同時に手足や腰を固定していたセンサー兼ロックが解除。
太腿から足先までが前に展開し、腕は上半身とともに後ろに折りたたまれ、変形が完了する。
周囲を見回し、『賢者』がいないことを確認。
機体に備え付けてあったM4ライフルを取り出し背負い、
「ようこそ、下等種族よ」
声に振り向きざまにライフルを構える。
そこには、一段高くなった“卵”の側に控えるように立つ青年の『賢者』の姿があった。
*
銀髪の青年は『世界樹の種』の側から二人の人間を睥睨する。
……降りてきたネズミは結局二匹か。
どちらも話に聞く強化アーマーを付けたタイプ。
だが今はその装備を外し、二人共が生身のままこちらに銃を構えている。
「大仰な装備を持ち込んだようだが、この場では使えまい!」
『世界樹の種』は絶えず世界からマナを吸い上げている。
その大半は種から生えた『根』より地下から吸うが、その周囲の空間も同様にマナを吸い上げられてしまう。
故に、少なくともこの最下層では、『世界樹の種』以外のマナ由来の技術を使うことは不可能。
銀髪の青年自身も同様にマナを扱う技を使えない。
「どうだ。諦めこの場で談笑に興じるというのは?」
「ハ、冗談じゃねェ!」
一人が叫びながら手にした銃を発砲。3発続けて弾丸が飛来する。だが、
「……ふん!」
即座に、腰に下げた片手剣を抜き、その鎬で銃弾を受け3発とも跳弾させ、回避する。
コンマ数秒にも満たない世界の出来事。だが、青年にはそれがハッキリと“見えていた”。
……マナは使えずとも、こんなもの。
それまでに強化した肉体が、銃弾などで殺されない身体を造り上げていた。
「化け物が――」
「貴様らが劣っているというだけの話だ。人間。どのみちその豆鉄砲で私を殺すことはできん。……大人しく敗北を認めるならば、この場で見逃してやってもいいが?」
「殺せないから諦めろだァ? ハッ――笑わせる。殺せないから、俺はお前らを“殺す”ンだよ」
その返答は、青年の理解を超えるものだ。
……殺せないから殺すなどと……全くこのサルは何が言いたいのか。
どの道言葉が通じるなどとは思っていなかったが、と青年は心中で嘆息。
そして、改めて汚い言葉でこちらを挑発する人間に向き合うと、
「なら、『賢者』を殺すなどとのたまう不遜の輩……先に貴様を殺すとしよう」
青年はそのまま手にした片手剣を振り上げ、飛び降りる。
「来るか! ズタズタにしてやンよ『賢者』!」
応じるように、人間は手に持ったライフルを地に捨て、腰からナイフを取り出し、
そして、激突する。
