AM07:20>スタンディング・バイ




 マスキングモニタが友軍であると告げているソレは『DVF-07 VITALITAS』――全高6メートル。ケンタウロスと言うよりも虫に近い4つ足と、首なしの人間のような上半身に巨大なコンテナを背負った異形の巨人。
《やーやー諸君ご苦労であったぞよ》
《皆さんお待たせしました! 大丈夫でしたか?》
 野上隊長のお気楽な声と千紗の真面目そうな声ともに、確保した降下地点に『ヴィタリタス』がパラシュートを広げて着陸した。
 さらに間をおいて、『ヴィタリタス』が背負っているものとは別に、姿勢制御ウィングの付いたコンテナが3基、同じくパラシュートを広げて着陸する。
 着陸後に自動で展開されたそのコンテナの中には、EA用の装備一式が格納されていた。
 槍に似た形状の武装が1機、剣・銃に分類されうるであろう装備がそれぞれ2機ずつ。そして、屋内・格闘機動戦用のバックパック。そして帰還用の強化ブースターだ。
 ――対賢者・拠点攻略用装備群。
 この半年、和真たちシエラ隊が、手塩にかけて育ててきた“子どもたち”でもある。
《ハイハイ、じゃあ換装作業始めるよー 慌てず番号順に一列に並んで〜》
 野上隊長の、遠足にでも来たようなのんきそうな声とともに、『ヴィタリタス』がコンテナの前に立ちアームを展開。人間を模した5本指の主腕の他、両肩・両腕にそれぞれ2対ずつ計4対折りたたまれた8本のロボットアーム型の副腕が展開する。
 和真たちも慣れたもので、速やかに『ヴィタリタス』の前に並ぶと、手早く降下装備のロックを外していく。
 それから間もなく、和真は『ヴィタリタス』のアーム群が自分の背を掴んだ感覚を覚え、続いてロックの外れた降下装備がEA本体のフレームから引き剥がされる。
《はーいいいこでちゅねー、脱ぎ脱ぎしましょうねー》
「……いやもうそのネタ飽きましたって」
《やっだもう和ちゃんったら! 大きくなって、母ちゃんはうれしいよ……よよよ》
「うっわついに会話の流れ無視したよこの人」
 軽口の中でも『ヴィタリタス』のアームの動きは止まらない。
 主腕がコンテナの中から格闘機動戦用の軽量型スラスターユニットを取り出し、サブアームで向き・角度を補正しながら和真の背部に接続。
《にゃはは。うちらのコールサインが“マザー”のうちは形式美みたいなもんだよ――はい接続、ロックよろしく》
「接続確認。ロックOK――つまりそれ転属するまで続けるってことですか……」
 和真がEAの側からロックを掛け、全ステータスが異常ないことを確認。
《そだねー ぼちぼち新ネタも仕込みたいところだけど……はい次、槍行くよー》
 続けて『ヴィタリタス』のアームから手渡されるのは武器。
 それは槍……と言うには、いささか異形に過ぎた。
 穂先は長く幅広い。しかもそれは一体成型の刃ではなく、先端に向かってプラズマビームカノンが内蔵されている。
 刃の部分は蒼いクリスタル状の物質で構成されており、その他はダークグレーを基調に塗装され、兵器然とした印象を与えている。
 そして何よりそのサイズは、初めから人間が扱うためには設計されていない。
 穂先から末端の石突きまでの長さは3メートル近く、重量は100キログラムを優に超える。
 EAで扱うことを前提に造り上げられた兵器。
 日本での名称は『試製38式魔装重槍砲』――対賢者武装国際共同開発計画、ADAST計画における開発コードは、『アクサ・ヴォルン』。
 対不死生物――もっと言えば不老不死たる、『賢者達』を滅ぼすために造られた必殺の兵器。
 同型の試作機は世界各国において87機製造され、各地でそれぞれの国情に合った改造と配備に備えた試験運用が続けられており、制式採用は間近だろうと言われている。
 それを右手で保持し、『アクサ・ヴォルン』のAIとのコンタクトを開く。
「認証。使用者佐伯和真」
〈音声認証。アクサ・ヴォルン試製一号機・使用者を佐伯和真二等陸尉と確認。お久しぶりです、マスター〉
 AIから認証を受け、待機状態であった機体に灯が入る。
 槍の中でクリスタル状の部分――『マナ・リアクター』が戦闘駆動状態に置かれ、淡く蒼い燐光を発する。
「3日ぶりだな。元気にしてたか?」
〈問題ありません。整備状況は万全です〉
「よし。じゃあ今日も付き合ってもらうぞ」
〈了解。全てはマスターのご意志のままに〉
 頼もしい『相棒』の言葉に僅かに頬をゆるめ、
「起動確認。ステータス異常なし」と隊長に告げる。その言葉に野上隊長は、《よっし、じゃあ次隼斗くんね》と答え、コンテナにアームを伸ばす。
 和真はその場を離れ、隼斗が『ヴィタリタス』へ背を向ける。
 そして同様の換装作業が始まる。

 *

 5分とかからず、全員の装備の換装は終了。
 作戦司令本部との中継通信機と降下用の鋼製ワイヤーロープの設置も速やかに終わり、
《いよっし完了。ちゃっちゃか終わって良かった良かった》
 野上隊長は満足気にそう呟いた。
《最悪、作業は戦闘との同時並行も覚悟してたんだけど……意外に早く片付いたんだね?》
「楽観視するなら、爆撃が効いたんでしょう。空軍が相当量の爆弾をブチ込んだみたいですからね」
 目の前に広がる大穴を見ながら、和真は野上隊長の疑問に答える。
 東海道攻略戦の中、運用できる爆弾も多くはなかった中とは言え、限界までリソースを割いたというから、それなりの規模であったはずだ。爆撃やそれに伴う崩落で魔物が一掃されていてもおかしくはない。
 だが、
《最悪の状況を想定するなら、中に魔物がぎっしり詰まってる……って線かな。無事降りられるといいなぁ》
 賢者達が攻撃を事前に察知し、魔物たちを逃していた場合、無傷で大量の魔物が残っている場合がある。
「ま、敵がどれだけ居ようが居まいが、どちらにしろ進む他ないんですがね」
《軍人さんの辛いところだぁね。んじゃま、とっとと降りちゃいましょうか》
 そう言うと、野上隊長は小さく息を吸い込み、
《……シエラマザーより作戦司令本部(HQ)。作戦進行は予定通り。これより敵拠点に侵入する》
 “よそ行きの声”で本部へ通信。
 シエラ隊は全員健在のまま作戦を開始するからちゃんと回収の用意をしておけよ、という意味だ。
《HQ了解。予定通り作戦を継続せよ。健闘を祈る》
 それに対し、作戦司令本部の愛想の欠片もない定型文が返ってくるのを聞き届けると、通信を切った隊長が《ようしっ》と一つ口に出し、
《じゃ、皆行こっか。ダイブだ千紗ちゃん!》
《いやいやいやダイブなんかしたら落っこちて死にますって! ゆっくり行きますよゆっくり!》
 慌てたような千紗の声とともに、『ヴィタリタス』が大空洞の縁に背を向けたままゆっくり後退し始める。
 そして、後ろ歩きのまま大穴の縁までたどり着いた『ヴィタリタス』は、
《じゃあ隊長さんはロープでノタノタ降りるんで、EAの皆は適当についてきてねー》
《行きますっ!》
 4脚の関節のバネとブーストを同時に使い、6メートルの巨体がわずかに跳躍。
 幾度かブーストを吹かし、落下速度を殺しながら、2本のワイヤーが縁に設置した滑車に固定。
 ワイヤーの張力で宙に吊られるのを確認し、『ヴィタリタス』は静かにブーストを切る。
 後は、機体側のリールでゆっくりワイヤーを繰り出し、機体を下ろすだけだ。
 和真は『ヴィタリタス』の機体が安定し、無事降下に移ったのを確認すると、一息。
 タンク中のエアーの独特の臭いを吸い、しばし休息していた脳を叩き起こし、
「よし行くぞ。EA隊、マザーとの相対距離を維持したまま降下開始」
《シエラ3了解》《シエラ2了解》
 指示と応答の後、和真達EA隊もスラスターをゆるやかに吹かせながら、『ヴィタリタス』に追随する。
 視界の先は、朝の日の光も入らない大空洞。
 漆黒の闇の中へ――本日2度目の降下である。

 *

《シエラマザーよりHQ。現在地下50メートル》
 強襲降下の5倍近い時間をかけて、ようやく和真たちは大空洞の底までたどり着いた。
「ここが底か……」
 和真が周囲を見回すと、当初のブリーフィングで予測された通りの瓦礫の山だった。
《やっぱ積もっちゃってるねぇ……ここは二人にお願いするしかないかなー》
 司令部との通信を終え、うず高く積もった瓦礫を見て野上隊長はつぶやく。『ヴィタリタス』はまだ着陸はしておらず、15メートルほど上空で宙ぶらりんの状態で待機している。
「了解です隊長。シエラ3は上方に待避」
《はいはい。逃げますよ逃げますとも》
 八代は言い終わらぬ内にさっさとスラスターを吹かせて『ヴィタリタス』のぶら下がっている高度まで待避する。
 それを確認すると隼斗の方を向き、
「よし隼斗、瓦礫掃除だ。やるぞ」
《チッ、しゃーねーな》
 隼斗は心底嫌そうな声で答えながら、しかし両手に持った二振りの剣を構えた。
 ダークグレーを基調に塗装された同型の片刃の直剣。
 淡い光を放つ、澄んだ蒼いクリスタル――マナ・リアクターの刃を持つ、その剣の名前は『試製37式魔装重剣』――国際開発コードは『リィレ・エンス』。
 『アクサ・ヴォルン』と同じく、シエラ隊で試験を重ねてきた対賢者武装――ADAST計画による第2世代機である。
《生き物以外を斬るのは好きじゃねェんだが》
「普通逆だろう」
《俺が普通だと思うのが間違いなンだよ》
 言いながら、和真も『アクサ・ヴォルン』を逆手に持ち替え、刃を地面に向けてシステムを切り替える。
〈攻撃システム変更:対物理・無機物モード。攻撃形態:範囲衝撃〉
 マナを利用した念話技術の発展から、思考追従型AIを積んだ、ADAST第2世代機は、脳内で攻撃対象を意識するだけで最適な攻撃モードを選択することが出来る。
「合わせるぞ」
《ヘイヘイ》
 本来は対賢者を想定して設計されてはいるが、マナをあらゆる形のエネルギーとして表出させることが可能な『マナ・リアクター』。それを直接の攻撃手段として使用可能なこの二機は、あらゆる形のエネルギーを直接使用することが出来る。
 例えばそれはマナそのものでもあり、熱エネルギーや電気エネルギーでもあり――
「3、2、1――」
《う……らァ!!》
 ――運動エネルギーでもある。
 カウントゼロと同時に、和真の『アクサ・ヴォルン』、隼斗の『リィレ・エンス』の刃が瓦礫の山に突き立てられる。
 瞬間にその場は暴風もかくやと思えるほどの衝撃波が走り、その場に山積していた瓦礫は瞬く間に吹き飛ばされていく。
 猛烈な土埃が巻き上がり、マナを嗅ぎつけて集まってきていた魔物はまとめて吹き飛ばされ、瓦礫の津波の中に埋もれていった。
 そして、たっぷり5秒後。
「……あらかた吹き飛んだか」
《床までぶち抜いたんじゃねェか?》
「そうだな。爆破する手間が省けたか」
 瓦礫を吹き飛ばすだけでなく、このフロアの床までぶち抜いたようだった。
《おー派手にやったねぇ。結構結構》
 土煙が収まってきたのを見た所で、ワイヤーで下まで降りてきた『ヴィタリタス』と八代。
 コンテナからワイヤーのリールを外し、『ヴィタリタス』が大地に着地。和真の側、床にぶち抜いた穴まで歩いてくる。
《や、やっと地面についた……》
 ため息混じりにそう言う千紗。10分以上100メートル近くの高さでワイヤーで宙吊りだったのだ。無理もない。
《よっし。じゃあ行こっか》
《……でも、下からお客さんみたいですが?》
 八代の指す先を見ると、ぶち抜いた床から瓦礫をよじ登り、魔物が集まってきていた。
 上がってきたのは植物型と昆虫型だ。天井を伝って這い上がってくる。
 下の階層を守護する魔物だろう。ここから先は空爆での被害は及んでいない。今までのようにフリーパスとは行かないはずだ。
《いいねェ……そうでなくっちゃなァ!》
 興奮したように剣を振りかざし叫ぶのは隼斗。剣を持った彼は解き放たれるのを今か今かと待ちわびる獣のようだった。
「隊長?」
《オッケ、やっちゃって。交戦許可で。……武器の消耗は押さえ気味でね?》
「了解。EAユニット、交戦(エンゲージ)!」
《さァて――祭だ!》


前のページへ  目次へ  次のページへ


壁紙をお借りしました。