あの日、世界は一度滅びた。
「――支配者達よ、大自然へようこそ」
『賢者達』と名乗るテロリストから全世界に告げられた宣戦布告の言葉とともに、人類は食物連鎖の頂点から叩き落された。
文明の恩寵たるコンクリートジャングルを突き破り、常識はずれの速度で成長した木々は瞬く間に全世界を覆い尽くし、魔物としか表現しようのない奇怪な生物が突然現れ、人類を捕食し始めたのだ。
何不自由ない生活を謳歌していたはずの人間達は、抗うすべを何一つ持たぬまま生存競争の舞台へ放り込まれ、混乱と絶望が70億人の人類の前に等しく降り注いだ。
多くの人間が魔物に捕食され、あるいは飢え、あるいは絶望の中で自ら命を絶ち――しかし、若い世代を中心に多くの人間がその環境に適応していった。
……それから20年。
人類が以前まで蓄えていた軍事力を、余すことなく生存につぎ込んだ結果、人類は多大な犠牲を払いながらも辛うじてこの新たな世界での命を繋ぐ術を確保し、未だしぶとく生き延びている。
残された総力をもって『賢者達』への反抗を続けながら。
AM06:35>アサルト・ダイブ
大阪・旧市街エリア上空
C-1航空輸送機『アンタレス5』カーゴ内
《降下まで後15分 シエラ小隊。降下準備に入ってくれ》
ジェットエンジンの爆音と、絶え間なく気流に揺られる振動。
それらに揺られながら、
“固定”。
それは、もはや和真の装備が人間として輸送するには大きすぎる事を示していた。
人間の身体をそのまま3倍近く拡張する機械装備、
故に、和真は身に付けた装備ごと輸送機の貨物室で車両とさして変わらぬ扱いを受けていた。
窮屈な事この上ないが、肌に触れる最新鋭のボディスーツは体温調節の補助機能もあるので慣れれば意外と快適ではある。
……ガキの頃の様に、魔物に怯えながら硬い地面の上で寝るよりは、よっぽど心地が良い。
思いながら、降下の時間を待つだけであったが、
《そろそろダイブの時間か。よォ、地獄を前にした気分はどうだ和真》
不意に通信。耳元に装備したヘッドセットのスピーカーから妙に上機嫌な声がする。
声の主は和真と同様の装備で固定されている、隊のメンバーである
「普通だよ。……なんだ? 妙にテンション高めだな『切り裂き魔』。遠足前のガキかお前」
《おうよ。俺はいつまでも少年の心を忘れないンだよ。 ――あー、早く暴れてェ》
『切り裂き魔』
それは彼が剣型兵装を好んで使用し、敵陣深く突貫するや否や、ダース単位で血祭りに上げる姿から来ている。
戦闘スタイルもさながら、彼の性格自体も――元々そうだったのか戦場で目覚めたのかは不明であるが――その名の通りの戦闘狂である。
「お前は相変わらずだな……待ちきれないからってここで剣を振り回すなよ? 迷惑だ」
《バァカ、こんなところで暴れてどうするよ。それに人間はすぐ死んで斬りがいが無いからダメだ》
「……物騒だよなお前」
そんないつものようなやり取りの中、唐突に隊長からの通信が入った。
《みんな、そろそろだよ! 準備いーい?》
能天気かつ、かん高いその声の主は『お気楽隊長』ことシエラ小隊指揮官。
《寝てる人は起きて起きてー どう? みんな起きてる?》
和真が国連第8方面軍司令部直轄の次世代装備試験隊――『シエラ小隊』に配属されてから、ずっと彼女はこんな調子だ。
訓練時も平時も実戦時も。365日24時間いつでも。
そんな声に和真も慣れたもので、
「こちらシエラ1起きてますよ」
気負わず適当にそう返す。
《こちらシエラ2。むしろこんな喧しい所で眠れる方がおかしいと思うがな》
続いて隼斗も冗談交じりにそう答える。
《シエラ3。問題ありません……はふ》
あくびを噛み殺しながら答えるのはもう一人のメンバー、
彼女は隼斗のさらに後ろに固定されている。
《よしよし。シエラマザーは満足である。……あ、ちなみに千紗ちゃんはさっきまでヨダレ垂らしながら爆睡してたよ》
《よっ、余計なことは言わなくていいですって!!》
《めちゃくちゃ幸せそうな声で『今晩はさんまだよぉ』って》
《ええええそんな事言ってました私!?》
通信から聞こえてくるのは、部隊指揮官の野上一尉と、輸送指揮機『ヴィタリタス』のパイロットである
二人は和真達三人とは別の輸送機、後方を飛ぶ『アンタレス7』の貨物室で揺られている。
「可哀想に……さんまを夢で見るほど食い詰めてたのか」
《か、可哀想ってなんですか和真さん!》
《そういえば長らくお肉が食べれてないって言ってましたよね、千紗さん……》
即座に八代がノッてくる。
《なんでさんまの夢見ただけでこんなに哀れまれてるんですかっ と言うか皆さんと一緒でちゃんと私も給料もらってますしちゃんとお肉も食べてますよっ!》
……ちなみにこの『シエラ小隊』は司令部直属の特殊任務部隊であり、軍の中でもさらに上乗せで危険給が付いており、高給の部類に入る。
最近は特に無茶苦茶やらされているので、和真達の給料もうなぎ登りである。使うヒマがないので貯まる一方であるという意味でも。
《まあまあ……ちーちゃんにはこの作戦が終わったら隊長さんが呉基地でさんまの塩焼き定食を奢ってあげるから。そろそろ確認に入ってもいいかな?》
《あ、言いましたね隊長!? さんま、約束ですよ!》
あれこれ言いつつちゃっかり食いついてくるあたり本気で食いたいようだった。
「千紗も良いようなので。隊長、どうぞ」
《はいはーい。じゃあ、今回のミッションの再確認を始めまーす》
*
隊長がそう言うと、隊員たちの視界に無人島と、その中にそびえ立つ、建築されたばかりとみられる敵の拠点の衛星写真が表示される。
視神経に情報を上書きし、視界に映像を重ねて表示する『マスキングモニタ』が見せる擬似的な視覚映像だ。
《今回のミッションの目的は、瀬戸内の無人島で新たに発見された、敵拠点の強行偵察です》
現実の視覚に重ね合わされるように映された写真は、スライドショーのように何枚かの像を流し、敵の拠点の姿を映し出す。
台形の巨大な建造物。
紀元前の遺跡をモチーフにしたような凝った石造りの建造物は、奴らの拠点ではメジャーな形状だ。
付記されたデータは、その構造物がおおよそ四方がおよそ5キロメートル。高さおよそ50メートルであることを示していた。
《この拠点の地下からは、極めて巨大な魔力反応が探知されており、その存在目的も不明。また、『賢者達』構成員三名の常駐が確認されており、情報部のエージェントも反応源まで近づけず、その詳細を掴みきれていません》
順々に表示されるのは、銀髪の青年と少年、そして赤毛の中年男。
人間の形をした、しかし人ならざる敵、『賢者』が三人。
その上、秘密兵器か何か、詳細の全く分からない巨大魔力反応。
便利屋扱いは毎度のことで慣れっこであるし、主力が東海道攻略戦に戦力の大半を割いている今、自分たちを投入するのは理にかなっていると理解はできるが……今回はその中でもかなりヤバい案件であると和真を始め、小隊全員がそう考えている。
だからこそ隼斗は『地獄』などと口にし、隊長も――かなり解りにくいが、おそらく通常比1.5倍ほど、無駄に明るく振舞っている。
《そんな訳で、今回のミッションプランは、いつも通りの高高度強襲降下。
EAユニットが先行して降下、魔物を掃討して着陸地点を確保して、そこに私達の『ヴィタリタス』とコンテナが続けて降下します。
装備を整えた後、先行して行われた空爆の穴から侵入し、魔物や『賢者達』の妨害を排除しつつ拠点最下層まで強行突破。
魔力反応源の調査を行い、危険性が認められれば破壊・無力化し、強化ブースターで速やかに脱出する流れとなります》
耳から入ってくるのは、事前のブリーフィングで聞かされた通りの流れ。
高高度強襲降下は、人類がこの20年間の戦訓を積み上げて確立されたセオリーに則った戦法。
だが、
……強行突破と離脱がどこまで上手くいくか。
事前爆撃で敵の数は多少減っているだろうし、敵拠点構造物の屋根は事前の爆撃でぶち抜かれて多少のショートカットは出来るだろうが、つまるところ『突撃』だ。戦術もクソもない。
本来は、後続の陸戦部隊や、海上艦からの援護があってのもの。
離脱に使用する強化ブースター『試製40式』も、使用回数が二桁に達しない試作機だ。
ヘタをすれば最下層から戻れずになぶり殺しになる可能性すら考えられる。
……そんな事態は考えたくはないが。
いかにも無謀、と言わざるをえない作戦を再度聞かされて、和真は否応なしに憂鬱な気分になる。
《ま、こんなところだね》
野上隊長は、そこまでひと通り言い終わると、一つため息を付き、
《んじゃあ、このとんでもミッションについて何か質問がある人ー》
いかにもうんざりした声でぶっちゃけた。
自分の、隊員達の心を代弁したかのようなあけすけな物言いに、和真は思わずため息とともに呟く。
「隊長がそれを言いますか……」
《いくら私でもこんな無茶言われたらグレたくもなるよー ……実松のおっちゃんめ。生きて帰ったらヒゲ引っこ抜いてやる》
そう言って野上隊長は不満を隠そうともしない。
今回の作戦には、さすがのノーテンキ隊長もご立腹気味のようだった。
こういう裏表の無さに和真も時折大丈夫なのかこの人、と思う反面、
……気安いな。
特に死と隣合わせの戦場で、彼女のような上官らしくない上官に出会えたのは、ある意味では幸運だったのかもしれない。
《ま、私達たちだけで制圧しろ……なんて言われなかっただけ良しとしようか》
「ああ全くだ。ヘタしたらあのヒゲモジャども、俺達をスーパーヒーローかなんかだと思ってるからな」
《そゆこと……行けそうなら行くけど、ダメそうなら素直に引くよ。特に『賢者達』との交戦は主任務でないので、あまり無茶はし過ぎないように》
「了解です隊長。まあ程々に行きますよ」
確認が終わった所で、
《降下ポイントまで残り10分、シエラ小隊は装備の再確認に入れ。……そろそろ空中散歩の時間だぞ》
輸送機の操縦士からの声。
降下の時間が目前まで迫っていた。
*
輸送機の操縦士からの通信を受け、いよいよ
モーションセンサーを内蔵した操縦服に包まれた手を握り開き、機体の腕が随意に動くようになるのを確認。
同時に視界のマスキングモニタに外部の映像と強化駆動装甲のステータスが表示される。和真はそれが全て正常であると確認。
この鋼鉄の装甲は、兵士にとって盾であると同時に、力であり、翼でもある。
パイロットの動作を追従することで人間並みの柔軟な動作が可能な上、背部スラスターにより高度をとったジャンプや、短時間の滞空をも可能にしている。
脚部には全方位ホイールが装着されており、平地ならば自由自在に滑走ができ、逆に不整地ならば脚部とスラスターによる人間離れした跳躍が可能だ。
……いよいよ、か。
首を振り、カメラと同時に機体の首部が追従していることを確認しながら和真は思う。
強襲降下の経験は既に両手では数え切れない。いいかげん慣れたものだが、緊張は変わらない。
薄暗い輸送機のカーゴ内。視界は薄暗いコックピットからカメラを通した薄暗い機内のものとなる。
《カーゴ内減圧開始》
操縦士からの宣言とともに、静かに機内の気圧が下がっていく。
ハッチを開けた際に、カーゴ内の人間が外との気圧差で吹き飛ばされないための措置だ。
無言の空間。エンジン音と振動だけが響くカーゴ内で、地上から保ってきた機内の気圧が高度1万メートルのそれに近づけられてゆく。
そして、
《カーゴ内減圧完了。降下ポイントまで残り3分。ハッチ開放》
重苦しい機械音がわずかに響き、しかしそれはすぐに暴風の如き風切り音にかき消される。
合金製の扉が口を開き、しかしうつ伏せの態勢の和真には未だ何も見えない。
和真は深呼吸を一度。マスクを通してタンクの中の酸素を吸い、
《降下ポイントまで残り1分》
軽く手を握り、開く。EAが汗ばんだ手の動きに追従し、10倍近く跳ね上がった握力として握られる。
視界に映るのは輸送機の床と、マスキングモニタに表示される各種ステータスのみ。
……全く。
武者震いか恐怖か。あるいは両方か。
「ガキはいつまでたってもガキ、か……」
トラウマは拭えない。何度空へ飛び出し、何百との魔物を狩り、幾人の賢者を血祭りにあげようとも。
人間としての根っこは変えられない。だが、覚悟は既に決まっている。
……なら、後は行くのみ。
和真はもう一度酸素を大きく肺に吸い込み、
《降下ポイント到着。投下開始。
操縦士からの通信と同時に、
機体が固定から外れ、投下用のガイドレールに沿って滑りだす。
勢いの付いた和真の機体はすぐにレールにそって機外へ放り出され、
――空。
身に付けた装備ごと、空中へと躍り出た。
和真の視界、機体のカメラを通してマスキングモニタに広がるのは、一面の空。
それを認識した直後、輸送機から放り出された僅かな初速から、重力に引かれて急速に身体が落下するのを感じる。
現在高度1万メートル。
自由落下の始まりだ。
*
現代における時速300キロの空中散歩は、どこまでも窮屈で、手持ち無沙汰である。
やることは単純。シークエンスに従い、落ちるだけ。
バックパックの降下装備に備え付けられた姿勢制御ウィングと管制ユニットが、事前にGPS座標で指定されたした降下ポイントへと誘導する。
人間は何もしなくていい。ただ、身を縮めて己の身体と装備を保持した降下姿勢を取っていれば、機械が全てやってくれる。
自由落下の、身体全てが浮き上がるような感覚に和真は不快感を感じながらも、しかし微かな安心感を得ていた。
……空だけは、自由だ。
飛行機から、ヘリから、放り出されるたびに和真はそう思う。
この場だけは、たしかに人類の支配下にある、と。
海や陸のように、魔物の襲撃に怯えずとも済む。
高高度飛行型の魔物は、現在に至って確認できていない。
低空を飛行する鳥型は近年ようやく登場してきたものの、歩兵ですら単独で十分に対処できる相手だ。
……空は、未だ俺達のもの。
翼はなくとも、ジェットエンジンと合金製の翼が。
羽根はなくとも、ターボシャフトエンジンと回転翼が。
人類を、確固たる空の支配者とさせていた。
故に和真は、フル装備で鉄の棺桶にしがみつくだけで道中は敵に怯える必要はない。
だが、気楽な旅も長くは続かない。
視界に表示された高度計は、みるみるその数値を削ってゆく。
1万メートルが5千メートルになるまでは、僅か1分のこと。
30秒もすれば、4000、3000を通り過ぎ、残りは1000メートル。
そして、1000を通り過ぎれば、揺りかごタイムは終わりを告げる。
900、800。
雲海を抜けると、すぐに目標が視認できた。
朝焼けに照らされた巨大な遺跡型の砦。
先行爆撃で一部大穴が開いているものの、それは間違いなく画像で確認した通りの建造物。長距離望遠で魔物の姿も確認できる。
700、600――
どこか他人事のように見ていた自己は姿を消し、兵士としての佐伯和真のスイッチが入る。
神経に火が入り、ぼやけた思考が一気にクリアになる。
そして、数値が500きっかりを指すと同時。
「高度500! ……減速開始!」
和真はヘッドセットのマイクに向かって叫ぶ。
同時に、コンピューター任せだった身体を、和真自身の手に取り戻す。
GPSの誘導に従って機体を制御していた姿勢制御ウィングはその角度を変え、エアブレーキとなって展開。
同時に降下装備の大出力スラスターで逆噴射をかけ、一気に重力加速を打ち消す。
「ぐっ……!!」
強烈な減速Gが和真の身体を襲うが、強化スーツのアシストで身体は動く。
時速300キロの加速を、猛烈な出力で打ち消しながら、姿勢を安定。
和真を含め隼斗、八代の三人の機体がそれぞれ重力に打ち克ち、高度150前後の空中で静止するのを確認すると、
「射撃準備!」
降下装備の背部に装着されていた2丁の大出力プラズマビーム砲を脇下から展開。
装甲強化服の腕部コネクタと砲のトリガーを接続し、眼下の建造物の上部に徘徊する魔物群に向ける。
眼下の魔物たちは、和真たちがスラスターに使用するマナを嗅ぎつけたのか、その存在に気づき近寄ってこようとする。
だが、飛行型でもなければ、降下中の和真達に手を出すことは不可能。
時折飛び跳ねたり火を吐いたりと涙ぐましい努力をする個体も見受けられるが、無駄だ。
「シエラ1よりEAユニット、
*
和真の号令と共に、空中で静止した3つの光から同時に6つの光芒が迸った。
降下装備に外付されたプラズマビームカノン。それらの一斉射が光の雨となって魔物の群れに降り注ぐ。
――これが、和真たちがパラシュートを用いない理由。
『マナ』由来の無尽蔵なエネルギーを用いたスラスターによる大減速をかけ、パラシュート降下の3倍近い時間をかけて降下。
その間に、強化装備を用いて上空から敵魔物を一方的に殲滅する。
強襲降下。
敵陣のど真ん中に降り、自身の火力だけで降下ポイントを迅速に確保し、戦線を引っ掻き回す。攻略中の敵の拠点への電撃戦に使用されているメジャーな戦術だ。
《そらそらそらそらァ!》
隼斗の威勢のいい掛け声とともに、地を舐めるように走る光条は魔物ごと敵拠点の屋上を焼く。
機動重量を無視した、降下装備専用の大出力プラズマ砲だ。
地上での取り回しは悪いが、その火力は折り紙つきの物。それをありったけ連射する。
過熱した砲身が冷却材の白霧を絶えずぶちまけるが和真たちは無視。おそらくこの調子で20分も使用すれば粒子加速器が熱で傷んで使いものにならなくなるだろうが、本命の武装は後から降りてくる。
故に和真たちは思う存分、魔物どものアホ面に片っ端から光弾を叩きこんでいく。
1000度を超えるプラズマは、植物由来の魔物は言うに及ばず、小鬼やインプすら一撃で蒸発させ、オークも瞬く間に原型を失う。
トカゲか何かは和真が視認する前に隼斗の餌食となり、大型の狼に似た種は、パニックになりながら必死に飛び回るものの、すぐに亜光速の熱量によって消し飛ばされた。
一部の知能の高い、人型に近い魔物たちは不利を悟って慌てて光から逃れようとするが、
《はいそこざーんねん。ウェルダーン》
八代が容赦なく狙撃していく。
ちょうど逃げようとしていた牛頭人身の魔物の群れが、光芒に薙ぎ払われ瞬く間に消し炭となった。
「ほれほれ人間様のお通りだ!」
豚などの家畜をベースにした低級の魔物も容赦なく丸焼きにしてゆく。
……もったいないが、仕方ない。
本来ならば食料候補であり、実弾で仕留め肉を持ち帰りたいところだが、回収手段のないこの作戦では気にしても仕方のない事だ。
たっぷり20秒をかけて周囲を掃射し終わると、和真たちは静かに着陸。
数十分ぶりに大地に立つ感覚。
「よし……シエラ1よりシエラマザーへ。EAユニット全機着陸成功」
《シエラマザー了解。もうちょっとで着くから降下ポイントを確保して待っててねー》
下からは視認できないが、隊長たちの『ヴィタリタス』は既に資材コンテナとともに投下されているはず。もう間もなくこの場に降りてくるだろう。
和真はぐるりとその場を見渡す。魔物で覆い尽くされていた敵拠点の屋上は、一面に焼け焦げた肉が転がるバーベキュー会場と化していた。
だが、まだ和真の視界には新たに出現する魔物の姿が映る。拠点内部から魔物が湧いてきているのだ。
学習したのか人型は後ろに下がり、突進を得意としたイノシシ型や牛型がデタラメに突っ込んでくる。
「ちっ……全周防御! シエラマザーの着陸地点を確保しろ」
《シエラ2了解》《シエラ3了解》
言うやいなや、三人は降下予定ポイントを中心に大きく三角形を描くように散開。
脚部のローラーで滑るように移動しながら、和真は視線で敵をロックオン。
同時に強化駆動装甲の腕部モーターと連動し、高速移動中でありながら瞬時に銃身に正確な照準補正が施される。
躊躇なくトリガー。
光弾がイノシシもどきの正面にブチ込まれ、巨大な胴体に赤熱した空洞ができあがる。
だが、頭脳を失い転倒した肉塊を踏み越え、牛型が突っ込んでくる。これも躊躇わずに射撃。続けて背後に鹿型。これも蒸発。
ロックオンとトリガー、ひたすらこれの繰り返しだ。
彼我の位置とチームの戦闘状況を突き合わせながら優先順位を付け、片っ端から消し飛ばしていく。
《牛、牛、豚、鹿……焼くのもいいけど鍋も……》
「なんだそりゃ」
和真はトリガーの手は休めず八代のひとりごとに思わずツッコミを入れる。
すると、彼女も手を休めないまま応答。
《だって食材の宝庫じゃないですかここ。ああすき焼きにぼたん鍋……》
牛型と猪型を立て続けにビームで撃ち抜き名残惜しそうに言う八代。先ほどの自分も似たようなことを考えていたな、と、和真は思わず苦笑。
すると横から、隼斗が角を振りかざして突っ込んできたバイソンらしき何かを立て続けに吹き飛ばしながら、
《ならこの際、植物型も一緒に串刺しにしてバーベキューにすっか!?》
「そうだな。帰ったら隊のメンツでバーベキューやるか? 基地近くの牛型を捌いてさ」
能天気な発案に、思わず和真も乗ってしまう。
《お! いいですねそれ。警備任務のついでに食材集めてきましょうよ》
《俺らが肉焼いた端から隊長が喰い尽くしてたりしてな》
《ええー……焼くのはもう飽き飽きですよ……》
軽口を飛ばし合いながらも、三人の手は止まらない。トリガーを引き続け、そのことごとくが必殺の一撃として魔物を吹き飛ばしていく。
死体が積り視界が悪くなると跳躍し、上空から再度掃射。
上空からの攻撃に為す術もなく魔物は次々と
「……もう打ち止めか?」
焼け焦げた肉塊の山がうず高く積もる中、動くものがなくったのを確認し、和真はそう言う。
音紋反応なし。ブーストを吹かして跳躍し、周囲を確認してもこちらに向かう動体は確認できない。
《人型は向こうの影に隠れてますけどね……えいや》
同様に跳躍して索敵していた八代はそう言って出入り口の一つを狙撃する。
プラズマビームの奔流に、数匹のインプが餌食となり、生き残った者は慌てて散り散りにその場から逃げ出した。
《下からの増援待ちみたいだな。潰しに行くか?》
「やめとけバカ。全周防御だっつったろ。もうすぐ――」
と、言いながら見上げると、ちょうどソレの影が見て取れた。
「――我らが
