AM11:09>ゲット・アウェイ




《急いで千紗ちゃん!》
《無茶言わないでください隊長! ……っと!》
 千紗の操縦により、急かされながらも器用に空いた穴の縁に足をつきながら、4脚の巨人が最下層に着陸する。
《よ、っと》
 追って八代機も着地。
 そして最後に……真上から飛来した大型の楕円の卵型コンテナが降下口から落下。
 ウィングの付いたそれは、コンテナと言うよりは爆弾にも見える、その中身は、
「強化ブースター……」
 『試製40式魔装強化加速推進器』。
 EAや『アクサ・ヴォルン』のスラスターと同様の技術で開発された大出力マナ推進システムにより、燃料による誘爆の危険なく安全に大推力を得られる新世代の推進器だ。
 EAを高速で戦域に投入、もしくは離脱させるための用途で試作されたものであり、戦場での取り外しを前提に開発されている。
 屋上に置いてきたコンテナに搭載してあったものだが、遠隔操作によりコンテナユニットから投下ポッドごと射出され、降下口から一直線にここまで降りてきたのだ。
 『ヴィタリタス』がアームで卵型の外装のロックを解除。手早く開封し、中からグレー系統の空中迷彩の施されたブースターユニットが姿を見せる。
《よし、じゃあブースターの取り付けするから来て! まず由美ちゃん!》
 言葉とともに『ヴィタリタス』の両腕の副腕が展開。
 まずは損傷のない八代機の換装。背部近接格闘機動ユニットを排除し、代わりに強化ブースターを装着。
 全ての固定ギアがEAとブースターユニットを接続させ、武装をブースター左右のマウントラッチに固定。
 それらを相当の手際の良さで野上隊長操る『ヴィタリタス』のアームがやってみせ、
《よし完成! 由美ちゃん、行っていいよ!》
《ではお先に。隊長たちもご無事で》
《着艦まで気を抜かないでね!》
 言葉とともに、ブースターのノズルから、運動エネルギーに変換された蒼いマナの排気が吹き上がり、ゆっくりと機体が浮き上がっていく。
 だが、その速度は加速度的に増していき、間もなく空の中へ一気に飛び出していった。
 ……これでまず八代は無事、か。
 僅かな安堵感と共に、蒼い光を見送り、
《ああああもう時間ない! よし、じゃあ次行くよ次!》
 明らかに焦りを見せる野上隊長。恐らく『ヴィタリタス』の後部指揮席では相当シビアなデータが出ているに違いない。ここからでも既に轟音が聞こえ始め、天井部分が崩落を始めている。
 和真の目から見ても、もう時間はない。
《もうこうなりゃいっぺんに換装しちゃる! 二人共後ろ向いて横に並んで!》
「はい?」
《あ?》
 言うやいなや『ヴィタリタス』両腕が同時に展開。
 背を向けた2機分のスラスターが(半ば強引に)引っこ抜かれ、立て続けにブースターユニットが連結される。
 言うは安いが、右腕群で隼斗の、左腕群で和真の装備を同時にバラして組み立てるそのアーム捌きはもはや、
 ……人外レベルだなこれ。
 左右合計で主腕2本、副腕8本。その全てがコックピットからの手動操作で行われている。
 ある程度プログラムの補助はあろうが、ここまでの速度と正確性を求めれば手動しかなく、
 ……中、どうなってんだろうなぁ。
 想像したくないな、と和真が思う間に換装は完了。
 そして、固定ギアが強引に2機のボディをホールドし、
 ……あ、今なんか嫌な音がした。
 金属……もっと言えばEAのフレームそのものが軋んだような音に嫌な汗が流れるも、もはやどうこう言っていられる状況ではない。
 空中分解が怖いなどと言っている間に生き埋めコースだ。
 最後に、『アクサ・ヴォルン』及び『リィレ・エンス』が両機のマウントラッチに固定され、全シークェンスを完了したことを確認。
 試作飛行プログラムが立ち上がり、
《いよっし二丁上がり! いいよ二人共、さっさと飛んじゃって!》
「……了解!」
《感謝するぜ隊長!》
 答えながら、離陸を開始し、間もなく振動。
 持ち上げられるような感覚とともに全身にGがかかり、

 一気に、空へ飛び出した。



 再び上がった空は、綺麗な青に変わりきっていた。
 白い雲のかかった空に朝日が照り、静かに瀬戸内の海を照らしている。
 その空の中を隼斗に続いて自動操縦で飛行しながら、振り返ればゆっくりと形を失って行く巨大な遺跡にも似た構造物。
 その崩壊の中から最後に間一髪で飛び出したのは、
《ひゃー、ギリギリ……》
《し、死ぬかとおもいまひた……》
 『ヴィタリタス』のスラスター及びコックピット他、基幹部分のみが変形した脱出ポッド。
 直後、雪崩れるように砦が崩壊し、瓦礫の山へと化していった。
 ……終わった、か。
 全員無事な上、無事任務達成。
 結果だけ見れば、大成功だ。
 その事実に肩の荷が下りる感覚を得ながら、ふと陸地に目を移す。
 深い森に沈んだ街と、それに抗うかのように灰色を誇示するのは呉基地の港。
 その光景を見ながら、和真はギラついた目で自分を殺しに来た相手を思う。
 ……人間、か。
 人間は滅びねばならないと奴らは言う。それが世界の意志だと。
 ただの狂信者なのか、あるいは奴らの言うことが正しいのか、自問しても和真には解るはずもない。
 死にたくない、だから生きる。
 はっきりしているのはそれだけで、和真にとってはそれで十分だ。そして恐らく、人類全てがそう。
 だが、奴らはそうでなくて――
《――こちら『かずさ』。着艦誘導を行う。指示に従い――》
 そこまで考えた所で、回収に来た護衛艦からの通信。
 マスキングモニタに表示された指示に従い眼下を見れば、広い甲板を持つヘリコプター駆逐艦が見える。
「了解。シエラ1、誘導に従い着艦する」
 ……そんなことより、今はともかくゆっくり寝たい。
 先程までの小難しい思考は霧散し、着陸態勢に移行しながら和真はこれからの休暇に思いを馳せるのだった。


END


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