ある家族の反乱 だしのや
「呼んだか、親父」
風が吹きすさぶある日の夜。仕切り代わりのテントの衣を押さえながら、少年はどかどかと大きな足取りで父親の元へやって来た。
その偉そうな足取りと言葉遣いの割には身長が低めで、大して威圧を感じるような容貌ではない。浅黒い肌にぼさぼさの漆黒の髪、鶯色の民族衣装をまとい、下手くそなターバンを頭に巻いている。
今寝るところだったとやや不機嫌な声で少年は言い、床に敷かれた絨毯に腰掛けた。
「済まないな、カイ。わざわざ呼びつけてしまって。今日の朝にでも話しておくべきだったのだが、部族の会合で出かける用事ができてしまったから夜にそうするしかなかったのだ」
父親は立派に蓄えた顎髭をさすりながら、「いーよ、別に」と呟く少年の目を見据える。
「用件はお前の成人の試練について、だ。もう夜も遅いから、端的に伝えておこうと思ってな」
それを耳にした刹那、だらしのなかったカイ少年の表情は一変し、途端に緊張した面持ちになる。
いよいよ、試練を受ける時が来たのだ。これが無事に達成されれば、カイも部族の一人前として認められ、父親の補佐として働き、やがては将来の部族長を目指すことになる。
「いよいよか……。試練は、何に決まったんだ?」
生唾を飲み込み、父親の言葉を静かに待つ。
「うむ。試練は、至極単純なもの。それほど気負うことではない」
父親はそう言って見せ、カイは少し胸をなで下ろす。
が、その安堵は続けられた父の言により、即座に砕かれたのである。
「『草原の地を離れ、エレナルド人の住まう南方の地で一年間、独力で生き延びること』。これがお前に課せられた試練だ。今朝の会合でそれが決定された」
父親は静かに語ったが、カイには何の反応もない。
それから、しばしの沈黙。
妙だと思い、父親がその顔の前で手を振ると――いきなりカイはわめき散らし始めた。
「はぁ!? 無理無理無理、絶対無理だって! 生まれてこの方、一度も草原を離れたことのない俺が未知の土地で生き延びろなんて、絶対不可能だから!」
「はなから無理などと、何を言うか! どんな試練でも耐え抜き、果たしてみせると言ったのはお前だろう!」
があがあと騒ぎ立てる息子に負けじと、父親も周辺の人間をたたき起こすような大声で反撃する。二人とも、元々喋り好きで声の大きいカシュガル族の血族なのだから、思い思いに喋り出すとやかましいことこの上ない。
ついにそれに耐えかねた姉が、「うるさい! 今何時だと思ってるの!」と隣の部屋から怒鳴り込んできたので、ようやく二人の口論は静まった。
えへんと父親は咳払いをして、話のよりを戻す。
「……まあとにかく、お前もその試練を見事やり遂げて見せよ。さすれば、部族の者たちも困難に打ち勝つ勇敢な少年……いや、一人前の遊牧の民として、お前を認めるであろう」
「ったく、都合のいいこと言って……ひでえ話だよなあ……」
最早事態は覆しようがないところまで進んでいたことを悟ると、少年は嘆息し、すごすごと自分の部屋へと引き下がっていったのである。
「で、結局これかよ! やれやれ、これからどうするんだか……」
都会のど真ん中で、古びた革袋を背に大げさなため息をつくカイ。とりあえず健康らしいことと、どんな場所でもツッコミの精神を忘れていないことは確認できる。
何とか抵抗は試みたものの、結局あっという間に、ことはカイの意志に反してあれよあれよと進んでしまった。
試練の門出祝いが終わった直後、カイたちテムル人の住まう北方の大草原を追い出され、田舎の路線バスに押し込められ、三日間もそれに揺られたあげくに、エレナルド人たちが住まう科学技術の結集した都会に放り出されたのだ。
都会で右を向いても、左を向いても、人と石の塔と鋼鉄の猪で溢れかえっている。緑と動物と、そして『精霊』と『ヴェーダ』で満たされていた草原とはまるで違う環境である。
「あー、当然だけど居心地悪いよなあ……。周囲の目線もそうだし」
バスを降りてから、駅(デンシャという乗り物が発着する場だとカイは聞いた)の構内で比較的目立たないベンチに腰掛けていたのだが、それでも時折刺すようなエレナルド人の視線を感じる。奇異と嫌悪の入り交じった矢が、都会という未知の戦場を飛び交っているような感じだ。
不愉快ではあるが、これも仕方のないことかとカイは思いたくなる。
北のテムル人と、南のエレナルド人。地理的に高嶺で隔てられているだけでなく、二つの民族の間には大きな亀裂があった。
ヴェーダと称する、自然界の精霊と協力し超常現象の発現を可能にする術を頼りに、古来のままの生活を守るテムル人。世界規模で開拓されてきた科学技術に依拠し、さらなる発展を志すエレナルド人。
決定的に異なる文化背景を持つ二つの民族は、古代のエレナルド人侵攻の折より対立を続けていた。そしてそれは、世界大戦が終わった現在とて例外ではない。
エレナルド国内は、今なお二つの民族の内部抗争で荒れているのだから、敵にも等しいカイ=テムル人がいることは、決してエレナルド人の住まう都会で歓迎されることではない。
「噂には聞いてたけど、本っ当に全然歓迎されるような雰囲気じゃねえよな。この状況下で俺に一年暮らせって……親父は俺を殺す気か」
去り際、晴れがましい顔をしていた父親が余計に憎たらしく思われる。とりあえず生還したら父親を一発ぶん殴ろうと、心に決めておく。
ただいつまでもこの場で愚痴を垂れるわけにもいかないので、とりあえず腹ごしらえをする場所、そして身の安全を確保できる場所をカイは探すことにした。
意気込むカイを、曇り空の元で徘徊する生暖かい風が迎える。
「頼むよ! こっちもまる一日何も食べてないもんだから、腹が減って……」
「ダメだ、ダメだ! あんたを店に入れたら、うちだってどう言われるかわかったもんじゃないんだから! こっちも頼むから、お互いの為を思って引いてくれ」
必死に頭を下げるカイに、店主は激しく首を振って扉を閉ざした。
ドアに吊られていたベルの音が、虚脱感を露にするカイのしょげた背中に虚しく響く。同時に、冷たい周囲の目線。通り過ぎる柄の悪そうな少年たちの嘲笑が、やけに耳に響いた。
「まあ、理屈はわかってるけどさあ……。こっちも飯食わないと行き倒れになるって」
眉毛をハの字に曲げながらも、五十八件目の店を求めてカイの足は進み始める。
頭の回転が大して速くないカイでも、エレナルド人が経営する店にテムル人がそうそう入れないことぐらい、わかってはいるのだ。エレナルド連合王国政府までもが反テムルを公にしている以上、それに背くような姿勢を取ることは、社会に対して非国民であることをアピールするようなものである。
だから当然、店を経営するような人間はとりわけテムル人を入れたがらない。風評が店の営業成績に直接かかわってくるのだから、それを突き落とすリスクを孕んでまで客として迎え入れようとは、これっぽっちも思っていないのだ。
「気を取り直せ、カイ・カシュガル! 食い物なんか、この街に食べ残すほどあるじゃないか。風の精霊がお前を守っているから、前進あるのみ!」
言い聞かせつつ、頬を両手でぴしゃりと叩いた。
さらにお守りとして持ってきた風の精霊の宝剣……の模造品を、皮袋から取り出す。鞘に収まったそれを手にとって、カイの意思を近場の精霊に伝えると、つむじ風がその周りを取り巻くように流れていく。
風が飛び去っていき、少し頭を冷やしてから、再びカイは歩み始めた。
顔かたちは大してよくないし、頭も中の下、ヴェーダの技術もそれほど冴えているわけではないが、どんなときでも前向きにいられる辺りは一人前と言えるらしい。
排ガスの酷い表通りから、レンガ造りの裏通りの路地へと潜り込む。ここなら鉄イノシシ(車という名前だということは、通行人の会話で知った)の数も少ないし、人目にもつかないから落ち着いて辺りを探索できる。
ちょっと洒落た通りであることを意識しているのか、建物の造りも趣のないコンクリート製ではなくて、中世の家々のようなレンガ造りのものが多い。街路灯も、近世のランプを彷彿とさせるような、レトロなデザインである。
もっとも、火も水も、生活に必要なものは全てヴェーダで起こす社会から一歩も出たことのないカイには、その光景が意味するものなど少しもわからないのだが。
「よくわかんねえとこだけど、あっちの大通りよりかはマシだな」
とりあえず落ち着いた場所だと理解して、右左に並ぶ商店の見極めをする。
まず見えたのは、小ぢんまりとしたパスタの店。表に出ていた看板を見ると、出立の際に受け取った外貨をつぎ込んでも入れるところではないとわかり、早々に立ち去った。
二番目は、どこかの民族料理を意識した店。少なくともテムル人のものではなさそうだが、意外と表で応対してくれた店員の態度は悪くなかった。ただ、店員が一口どうですかと進めた料理が恐ろしい味だったので、愛想笑いをしながら早足で逃げた。
三番目に目に付いた店は、「寿司」と達筆で書かれた看板を掲げていた。当然諸外国の言葉などわかりっこないので、意味も知らずに敷居をまたいでいく。入るやいなや、店の若者たちの「らっしゃいー!」というやたら威勢のいい声と、物凄い形相で睨んできた熊のような店主に圧倒される。中の雰囲気は悪くなかったが、その主人の存在だけで気圧されてしまい、自然と足が後退していった。
「感触は悪くないけど、なんかも一つ俺に合わないような……。もっと丁度いいところはないのかね」
とりあえずテムル人というだけで拒絶されなかった分、表通りの店よりかは待遇が良さそうだ。そういえば、不思議と通行人の目線もさほど気にならないような気がするのだが、何か関係でもあるのだろうか。
六十一番目の店はいずこと思って視線を向けた先に、『リース』という立て看板を表に出した、一軒の料理屋があった。割と綺麗な店が多そうなこの界隈で、その店の外装は一風変わった年季を漂わせている。
張り出した緑のビニルで作られた
「ふうん。気取った素振りがないのは、好印象だよな」
ドアの側に張り出されたメニューでリーズナブルな品が多いことを確認してから、カイは店内に足を踏み入れた。
からん、からんと古ぼけたベルが鳴り、ひゅうと吹き込んだ風で天井に備え付けられたプロペラがくるくると回る。
「いらっしゃいませー」
どこからか間延びした声が聞こえてきたと思うと、カウンターのほうから赤毛の女性ウェイターがやって来た。
ふわりとした赤い巻き毛に、緩やかに広がるスカート。屈託のない笑顔に透き通った青い瞳が印象的……と思いたかったが、それよりもカイには強烈なインパクトを与える要素が、その女性にはあった。
思わず吹き出しそうになるカイ。が、いきなりエレナルド人を馬鹿にするような態度はまずいと瞬時に判断し、なんとかこみ上げる笑いを堪える。
「お一人様ですか?」
「はい、そうです」
棒読みの答え。歯を食いしばりながら喋っているので、こんな話し方しかできない。
「わかりました。それではこちらにどーぞ」
女性ウェイターはそれに気がつくこともなく、カイに円卓の席を勧め、メニューとコップの水を渡して立ち去った。
その背中がカウンターの奥に消えたのを見届けると、カイは声を潜めて笑う。
「あー、おかしい! あいつ、顎にソース付けっぱなしだったじゃないか」
出会いがしらにいきなり笑わせようとするとは、なかなかの芸人である。……いや、恐らくは昼食中に何かがついて、そのまま気がつかなかっただけなのだろうが。
再び現れた彼女に、今日のランチをひとまず注文する。
ソースは気がついて慌てて拭き取ったのか、もう顔には付着していない。その代わり、ウェイターの顔は自身の赤髪のように紅潮して見えた。
水に少し口をつけて、店の中を改めて見回す。昔ながらの喫茶店を思わせる店内には、お昼を少し過ぎたせいなのか、それほど客の姿は見受けられない。エレナルド人の老夫婦と、サボりらしい学生の男が一人。それに、二つ隣のテーブルに固まって座っているテムル人の男たち。
その光景に、カイはおやと思わされるものがあった。
一つは、ただでさえこの都会では肩身の狭いテムル人なのに、あのように自由に、なおかつ楽しそうに飲み食いをしているのは少し珍しかったことである。店側もそれを咎める様子がないのを見ると、少なくともカイの顔を見るなり撥ね付けた、表通りの店とは対応が違うらしい。
二つは、同胞であるはずの彼らから、何の精霊の気配も感じないこと。昔ながらの自然とヴェーダに依拠した生活を送るテムル人に、本来それはありえないことなのだ。
ヴェーダとはそもそも、森羅万象を構成する存在である精霊との対話によって成立する、特殊な力のことだ。それによって、テムル人は自由に火を起こしたり、人の気持ちを静めたりすることができる。
テムル人は科学技術の代わりにそれを生活手段としており、生後すぐにヴェーダを会得する訓練を受ける。それからは、各々が得意とするヴェーダを基として遊牧生活の糧とするのだから、近くにいれば常に何らかの精霊の気配ぐらいは感じるはずなのだ。
しかし、眼前の彼らからはその感覚がない。それが意味するものは――。
「よう、兄弟! あんたも良かったら一杯どうだい」
思索するカイにいきなり声を掛けてきたのは、その集団の男の一人だった。ほんの少し赤黒くなった熊のような顔をほころばせ、瓶に残った酒らしきものを勧めてくる。
「ああ、いいよ……って言いたいところだけど、そうもいかなくてさ。まだ成人の試練の途中なんだよ」
両手を開いて、カイはおどけてみせた。それを聞き、男たちは喜びと驚きを露わにする。
「試練! そうか、俺たちにも昔はそれがあったんだよなあ」
「こんなとこまで来るとは、それも試練のうちなのか?」
口々に彼らは喋りたてるが、とりわけ酒を勧めた男の言葉が印象深く残った。
「もうそんな時期かあ。どうだい、ここの暮らしは草原に比べてなかなか難しいだろ」
「まあなあ。みんな敵対意識が強いから、あんまりヴェーダを大っぴらに使うなって釘も刺されてるし、あちこち動きにくいもんだから」
そう言いつつ、カイはちらと男の顔色を伺う。笑ってはいるが、ほんの少し寂しそうな笑顔だった。
「そうだよな。けど、あんたも負けちゃいけないぜ。あんたには精霊様の加護があるんだからな」
頑張れよ! と男たちは言い残し、勘定を済ませてぞろぞろと店を出て行った。
残り香すら感じさせない、その背中。どうやら、カイの直感は当たっていたらしい。
哀れみでもない、怒りでもない。上手く言葉にはできないものの、何かが腑に落ちない複雑な心境。それを一時的に払ったのは、円卓に料理を持ってきた少年の一声だった。
「へい、お待ち。今日のランチセッオだ」
短く刈り上げた金髪にハーフパンツ、それに目元に少し張られた絆創膏。青い目を開いてはきはき言葉を話す様子は、いかにも元気な坊主といったところである。
「おう、ありがとうな」
それを受け取りつつ、カイは一瞬それを躊躇した。この少年なら、先ほどの集団のことも知っているのだろうか。しかし、たやすく声を掛けても大丈夫か、という一抹の不安が、彼を臆病にさせる。
しかしそれより早く、少年のほうがカイの意思を汲み取って尋ねかけた。
「あんた、草原から来たテムル人なんだろ。やっぱり、あのおっさんたちが気になるのか?」
寸分違わぬ問いに、思わずカイは意表を突かれた形だ。何故それがわかると動揺しながらも、それには正直に答える。
「あいつらのような都会のテムル人と俺とでは、何か違うものが間にある……。なんか、そういう予感がしたから」
また、少年はさらりと言ってのける。が、それはカイにとって決して重みがないものではなかった。
「ああ、ヴェーダのことか。やっぱりそれもわかるんだよな。なんたって、あんたたちが本家なんだし」
少年は特に意識してそれを言ったつもりはなかったが、カイがあまりにもぶったまげた顔をするので、少年が訝しげに様子を伺う。
「……何だ、俺そんなにまずいこと言ったか?」
「いや、別に、まずいとかそうじゃなくて、だな……」
しどろもどろになりながらも、カイは周囲の安全を確認してから、少年に耳打ちする。何故そこまで知っているのか、真偽のほどを確かめたいのである。
「何でお前、俺がヴェーダを使えて、あいつらに使えないってわかるんだよ。テムル人の研究でもやってんのか?」
エレナルド人とテムル人が対立しているのは周知の事実だが、テムル人が特殊な力を所持していることを知っている人間は殆ど存在しない。対立しているのはあくまで文化的な問題のことであって、ヴェーダについてエレナルド人が知っているはずがないのだ。
そういうカイの前知識は、不敵に笑う少年の言葉であっけなく崩された。
「俺らが単に、他のエレナルド人よりもテムル人に詳しいってだけのこと。だから俺はお前たちがヴェーダを使えることも知ってるし、都会のあいつらと草原のお前たちとは同じだけど違うってことも知ってる」
余裕すら感じさせる、自信たっぷりの笑みである。それに対し、まだ眉をひそめているカイ。
「そんなに怪しむなって! 俺らは別に、お前の敵でもなんでもない。むしろ、味方のポジションに立ってるし」
「味方?」
エレナルド人からテムル人に対して、初めて聞いた言葉である。続けて、少年はまた不可解なことをカイに投げかけた。
「ああ、そうだ。何なら、明日俺らの『反乱軍集会』に来るか? 近くのスラム街でやってるしさ」
「反乱軍集会ぃ?」
訳がわからんと、素っ頓狂な声をカイは上げる。
一般的な意義で言えば、反乱とは既存の権力に対して武力行使を働くことである。つまり、反乱軍とはそのために組織された軍である。ということは、この少年はその一兵士なのであって、しかしヴェーダとテムル人に詳しくて……?
意味不明すぎて、最早カイの脳はオーバーヒート寸前である。
「別にこれも怪しいもんじゃない。騙されたと思って、一度来てみな。都会のテムル人の実態もわかるかもしれないし。ほれ、これが地図だ。俺らステンキルファミリーはここでパフォーマンスやってるからさ」
少年はくしゃくしゃに丸めた半紙の地図をカイに押し付け、「それじゃ、ごゆっくり」とすたすた歩いて戻っていった。
「反乱軍、ねえ……。一体あいつ、何者なんだか」
何気なくその姿を見届け――そこで、カイは更に衝撃の事実を目の当たりにした。
微かに感じる、精霊の気配。それも、雷のものである。
先程までは微塵も感じなかったのに、今辺りにはちらちらとそれらしいものを感じ取ることができる。天井の蛍光灯の周りにちかちかと瞬くものがいるのを見れば、雷の精霊の存在は疑いようがない。
勿論、精霊の知覚を持たないエレナルド人には、そんなことはわからないのだが……。
「どういうことだ……?」
にわかに信じがたいことである。あのテムル人の集団がいる時には、カイがいつも引き連れている微弱な風の精霊しかここには存在しなかった。だが、あの少年が出てきた頃から、雷の精霊がここに現れたのだ。
ということは、つまり――。
「ちょっくら、確かめる必要がありそうだな」
フォークを不器用な手つきで操りながらパスタを口に放り込み、カイは呟いた。