凡夫
ヒーロー
気がつくと、俺は倒れていた。俺は体を起こし、立ち上がる。
俺のそばに、魔剣が落ちている。後ろには月姫さん、前にはリリスが倒れている。それなのに、俺と戦った奴の姿は何処にもなかった。そいつがいたはずの場所に、ネックレスが落ちていた。銀の鎖に、金の指輪が通されている。指輪の石は、ブラックスター。彼も愛されていたのにな、と直感した。
俺が二人をどうしようか迷っていると、誰かが階段を下りてきた。ティツィアーノさんとフランシスカさんだった。
「勝ったのか」
ティツィアーノさんがそう聞いてきた。俺は、力なくうなずいた。
「私達は、辛くも勝利って感じよ」
フランシスカさんが笑いながらそう言った。そう言う彼女は、ティツィアーノさんに肩を貸され、足を引きずっていた。
「二人は」
ティツィアーノさんに聞かれる。俺は、首を横に振った。
「そうか」
とティツィアーノさんは返事をした。
「王女殿下は外傷はなさそうだが、リリスの方はひどいな。フランシスカ、あいつに治療魔法をかけてやれるか?」
「ええ、なんとか」
フランシスカさんが返事をすると、ティツィアーノさんはリリスのそばにフランシスカさんを座らせた。
俺はネックレスを拾って、ポケットに入れた。まだ、暖かかった。
フランシスカさんがリリスを治療し終わると、俺がリリスを背負い、ティツィアーノさんが月姫さんを背負ったうえでフランシスカさんに肩を貸した。俺達は満身創痍で、地上に出る。
誰もいなかった。誰も助けに来てくれなかったから、俺達は自力で町を目指した。これが、最後の五人での旅だった。
数年後。月姫さん、否、ジュリエラさんはラティエラさんと結婚することになった。二人で、国を担っていくのだ。
俺達はあの後、王都に戻ってしばらくそこに滞在した。俺達は功績を認められそれなりの地位が与えられることになったが、俺は辞退した。気恥ずかしいというより、俺にはそんなものいらないと思ったからだ。
ラティエラさんが城内を一掃すると、すぐにティツィアーノさんは軍に復帰した。ティツィアーノさんは嬉しそうだった。
ジュリエラさんは、そのまま城にとどまることを選んだ。元の世界に戻ることができない以上、此処で王家の人間としての役割を果たしていくと言っていた。できた人だと思った。
俺達はしばらくフランシスカさんと旅をした。だが、彼女がジプシーと合流すると、たった二人になってしまった。
俺はこれから何をすればいいのか、分からなかった。目標を達成した後だからだろうか、燃え尽き症候群とでも言おうか。何に対してもやる気がでなかった。
リリスはそんな俺に言った。しばらくは自分と一緒に来なさいと。住居お食事も提供するから、狙われやすい吸血鬼を守るようにと命じられた。俺は、その命令を受けた。
そして今、俺は吸血鬼の一族とともにいる。リリスが言うに、もう純粋な吸血鬼はいないらしい。最後の一人は数年前に、亡くなったそうだ。
俺は家族と言うべき人々に囲まれて今を過ごしている。吸血鬼というから、もっと獰猛な感じを想像していたが、俺の知る人間よりよっぽど穏やかな人々だった。おかしな見た目の俺を見ても何も言わず、受け入れてくれた。
俺は今までのことを、反省し後悔し、だが誇りに思いながら生きている。呼吸をとめたくなることもあるし、悲しいことも苦しいこともある。吐きたい時も、悪夢にうなされることもある。だが、幸せだと思うことはあるし、嬉しいことも喜ばしいこともたくさんある。過去を忘れることができるくらい、楽しいことがある。
死にたくなるくらいつらいこともある。だが、俺は生きている。苦しくても痛くても悲しくても傷ついても、それでも、俺は、生きていく。
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