崩壊
フラストレーション
俺達四人はぎすぎすした関係を保ったまま、道を行く。誰もが心の内で言えない何かを、抱えているのが分かる。なんて疲れるんだろう。
このまま悪魔のところに行っても負けるだけな気がした。だが、俺達が歩みを止めることはなかった。みんな負けるだろうと予想はついているだろうに、誰もが歩みを止めない。止められない、今更戻るなんてしたくなかった。ただ、それだけだった。
今までなら、こんな鬱々としているのは俺だけで、それに気づいたティツィアーノさんやフランシスカさんが俺を気遣ってくれていた。けれどフランシスカさんは自分のことでいっぱいなんだろうし、ティツィアーノさんは自分のするべきことじゃないって分かっているんだろう。以前のように振る舞われるのも癪だが、今の状態もきつかった。
道を進んでいるうちに、暗鬱とした黒い雲の真下にある城が見えてきた。黒っぽい石造りの古い城だ。城壁は崩れかけている。真後ろに火山があり、雨も降ってないのに稲妻が光っていた。
「あそこよ」
リリスが静かにそう言った。
俺達は心に不安を抱えたまま、城に近づく。城からは物が焼ける匂いと、なにか異臭がした。俺が初めて来たときに見た、あの化け物が門を守っていた。
入口は、奴らの守る門しかないようだった。
俺達は跳ね橋の手前までくる。跳ね橋は降りている。化け物は俺達を見て落とし格子を落とそうとしたが、リリスの魔法によって蔓で手足と口を封じられた。その隙に俺達は奴らに近づき、俺とティツィアーノさんが、一匹ずつ奴らを殺す。堀には溶岩が流れている。
俺達は重たい扉をなんとか開け、城の中へ入った。
俺達は目の前の大きな扉を開け、先へ進む。しかし、道の先に白髪の奴らが現れる。どうやら後ろには、さっきのとは別の化け物がいるようだ。俺達は月姫さんを真ん中にし、俺とリリスを前、ティツィアーノさんとフランシスカさんを後ろにしそれぞれ戦う。あちらも俺達を阻もうとするが、俺達の方が強く、前へ進むのは俺達だった。
出てくる敵をなぎ倒しながら、俺達は進む。いろいろな扉があるが、ティツィアーノさんが言うには、悪魔は城の一番奥にいるらしい。俺達は扉を無視し、とにかく進んだ。二手に分かれたときもあるが、必ず合流した。そういう造りになっているようだ。
地下へ進む階段と、上へ行く階段があった。
「俺もここからは分からない。奴が悪魔で、一番奥にいるという話しか聞いたことがないんでな」
結局俺達は上へ行くことにした。先に上っておいた方が疲れないだろうと判断したkらだ。本当は二手に分かれるべきだったかもしれないが、もし宰相や、それレベルの奴らが一度に現れたら相手しきれない。
階段を行っても敵は現れる。特に化け物は見境なく周りを壊していく。俺達が白髪を倒し、化け物達からは逃げるようにした。
階段を上りきると再び長い廊下が現れた。一階と同じように俺達は進む。
そんな風にして俺達は五階に着いた。そこからは狭くなっていて、階段は螺旋状。塔の中にいるようだ。
目の前に白髪が現れることはなくなった。少し疲れてきていたから、よかったのだが、後ろから化け物は追ってきていた。奴らは階段を壊しつつ上ってくる。戻ることは出来なさそうだった。
俺達は化け物から逃げつつ、階段を駆け上がる。月姫さんはもう限界そうだったから、ティツィアーノさんが背負った。ならついてくんなよ、と思ったが、今はそんなことを言ってる場合ではない。
塔のてっぺんに着くと、灰色のマントをかぶった男が鏡を見ていた。後ろから覗くと、目が合った。
そいつは振り向く。眉毛はなく、顔色は異様なまでに青い。目の色は薄紫で、額には刺青がある。殺人鬼に負けないくらいのピアスをしている。
「よく、ここまで辿り着きましたね。彼らも決して弱いわけではないのですが」
奴の舌にもピアスがあった。まるで、蛇のようだと、なぜか思った。
「心配なさらずとも、こんな狭いところにあいつらは入ってこれませんよ」
「そんなことはどうでもいい。お前は、悪魔じゃないな」
ティツィアーノさんが口を開く。
「おや、チェーザレ、裏切ったのですか。それとも、もともと我らの同志ではなかったのか」
「黙れ」
悪魔は此処にはいないようだった。なら、こいつは誰なのか。新たな敵か。
「おや、ユータさん。私が誰だか、分かりませんか」
とそいつは笑った。そいつはフードを外し、指を鳴らす。鴉の濡羽色だった髪がくすんだ金色に変わり、銀縁の眼鏡が現れる。
「お前は……!」
「そうですよ。私は元宰相。今は悪魔の右腕の、ジャン=バティスト・オルトロス・バイェステロス」
「あの時、逃げたと思ったら……。そうか、そういうことか」
ティツィアーノさんが、苦々しげに呟く。
「彼の邪魔をするというのなら、此処で潰すまでですよ」
やつはそういうと鏡を床に叩きつけ、俺に向かってきた。鏡の破片は俺以外に襲いかかる。
鏡の破片が落ちていく。俺は剣を受け止めるので精一杯だ。だが、やつは同時に魔法も使ってくる。俺には効かないが、他の四人には効くのだ。
やつの魔法を防ぐのは、だいたいフランシスカさんだ。リリスの魔法は防御より、攻撃に向いているらしい。
フランシスカさんが何度目かの魔法を防いだときだった。俺と奴の前に、ティツィアーノさんが現れる。
「お前は二人を連れて、地下へ行け! 此処は俺とフランシスカでなんとかする」
ティツィアーノさんは、剣を受け止めながら、そう叫ぶ。俺の足は動かない。
「信用すべきかどうか迷っているなら、それでもいい。だがお前のすべきことは、今ここで迷うことじゃない。あの悪魔を倒すことだ」
そうだ、その通りだ。俺は此処で迷っているべきなんかじゃない。もし、ティツィアーノさんが敵だったのなら、フランシスカさんはきっと正しい判断をしてくれる。
俺は隅で小さくなっている月姫さんとリリスに声をかけ、階段を下ろうとする。
「行かせるものか!」
ジャン=バティストは、いつになく声を荒らげて、魔法を放つ。俺達が避けると自分の手下である、化け物に当たった。
「おい、よそ見するな。お前の相手は俺達だ」
「相手は、私達でしょう」
ティツィアーノさんとフランシスカさんの声に見送られ、俺達は階段を下り始める。しかし、化け物を倒しきったあと、もう階段はない。化け物達に壊されてしまっている。それに、俺達は疲労困憊状態だ。あまり、移動したくはなかった。
すると、リリスが
「ここから飛び降りるわよ」
と言い出した。俺が顔を向けると
「着地の瞬間に私の魔法で衝撃を和らげるから平気よ」
と自信満々に言った。
俺達は彼女の自信を信じて、階段の外へ、一歩を踏み出す。片足が宙に浮いている。やはり、怖かった。月姫さんも同じようで、中々もう一歩を踏み出せない。
そんな俺達を見ていたリリスはしびれをきらし、俺達の背中を押した。精神的な意味ではなく、物理的な意味で、だ。
俺達は下へ下へと、落ちていく。下は堅い床だ。叩きつけられて死んでしまう、そんな想像をしてしまった。
床が目の前に迫った瞬間
「
暴風の羽毛!」
とリリスが魔法を唱える。突然足下で暴風が巻き起こり、俺達はその暴風に乗ることでゆっくりと着地した。
床に足をつけ、安心して力を抜いていると、リリスに怒られた。
俺達は、急いで、一階に向かう。もう敵は出てこないから、さっきよりは楽だった。
地下に続く階段の前に立つ。すっと息を吸い込んで俺は一歩を踏み出した。二人も、俺に続く。
階段は進めば進むほど暗くなっていく。前が見えないが、俺達の中に明かりを灯す魔法が使える奴なんていない。俺達は、急ぎつつしかし慎重に進んでいった。目が暗闇に慣れても、足元が見えない。
突然階段が終わる。驚いて転びそうになったのを、月姫さんが支えてくれた。本人を相当疲れているだろうに。俺は会釈だけした。彼女は笑顔で、首を振った。
俺の眼の先には、五つだけ炎が灯っている。まるで星を描くかのように、炎は置かれている。
その中央に、人がいた。炎に照らされているのはほんの少しだが、人がいるのが分かる。強い殺気を放っている。慣れていない月姫さんは、震えながら俺の腕にしがみついていた。
俺達は、一歩ずつ近づいていく。警戒しながら、慎重に慎重に。どうもそいつは、俺達に気づいているようだが、攻撃してくる気配はない。
炎の暖かさを感じるところまで来ると、突然明るくなる。見上げると、頭上におおきな、真っ赤な炎が浮いていた。
俺は前を向く。漆黒のマントをかぶったそいつが、顔をあげる。爛々と輝く銀の右眼に紅い左眼。間違いなく、俺を襲った悪魔だった。
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