黒き薔薇の戦慄―光の先に―   八神羅月



 あなたの命に永久(とわ)の美しさを……





 闇にのまれる意識の中、うまく働かないからだと頭を必死に動かして青年はもがいていた。しかし、それができるのは彼の頭の中だけ。現実に実行されることはない。すでに彼の?は、指一本すら動かすことはできないのだから。
 月明かりが照らす雨の夜。不思議な光景の中、薔薇の園に迷い込んだ青年。ぞっとするようなどこか奇妙な笑みを浮かべた少女に誘われるように死の淵へと足を踏み込んだ。意志を持つかのように蠢く薔薇たち。人を糧として生きる薔薇に取り巻かれ、肉を裂かれ、血を吸われ、青年は生き地獄を味わっていた。
 荊を操る少女の足もとに転がる物言わぬ死体。いや、死体などときれいに呼べるシロモノではない。かろうじて元の形が分かるかというほどに分断された肉片。そのすべての水分を吸われ、茶色くからからに干乾びた姿。
 アレのようにはなりたくない。
 灼熱の痛みに焼かれ、何も考えられなくなったこの体をめぐるのはその思いだけ。
 しかし、薔薇は青年を殺す手を緩めたりはしない。
 最後の一滴を頬張るまで。決して。
 ぶちぶち。みしみし。ずるずる。
 自分の?がねじ切られる音。その奥にのぞく骨が砕かれる音。滲みだす血が容赦なく啜られる音。
 青年の頭の中に響くのはそんなものばかり。
 感じられるのは、体中の肉を、ぐちゃぐちゃと引っ掻きまわされる不快感だけ。
 手の先足の先、末端から徐々に体が木乃伊(ミイラ)化していく。
 降り注ぐ雨は、その渇きを満たしてはくれず、逆に薔薇にうるおいを与え勢いづかせる。
 視界が暗くなっていく。目を開けているのに、限界まで開いているのに、その眼に映るのは闇だけ。
 くるしいくるしいくるしいくるしいくるしい。
 首は恐ろしいほど強く締め付けられ、棘は奥深くまで突き刺さる。
 

 ぐにゅ。


 喉を、棘が貫いた。喉を掻き毟りたいほどの不快感と痛みが脳を刺す。
 首は、僅かな肉と骨でかろうじて?とつながっている。
 生きているのが不思議な状態。彼を生かしているのは執念だろうか。
 首の芯に、もぐりこんだ薔薇が直接まきつく。
 腕も、足も、胴も。ありとあらゆる場所で、骨と肉で僅かに繋がっただけの?。追い討ちをかけるように強く巻きつく薔薇。
 そして……。
 

 ぐきっ。ぐしゃっ。


 首の骨が折れる乾いた音を合図に、彼の全身が四方に弾け飛んだ。
 そこで青年の意識は闇に沈められた……。


 生きているものが誰もいなくなった場所で、少女は一人笑っていた。もとがわからないほどバラバラに砕け散った物体を眺めて。
 ナカミをまき散らして、ぐずぐずに崩れた肉体。かろうじて判別できるパーツは頭だけ。
 その濁った瞳は天を仰ぎ、雨にしっとりと濡らされていく。
 腕を唇に寄せ、飛び散った青年の血液をそっと舐める。その仕草はなんとも妖艶でいて、不気味。


 これであなたの魂はワタシのもの
 ワタシの中で、薔薇の中で美しく咲き誇る
 その輝きは永遠……


 最後の最後まで、我先にと争うように獲物をとりあう薔薇たち。
 その荊がしなやかに波打つたびに、真紅へと鮮やかな変貌を遂げる薔薇の花弁。
 満足そうに微笑み、くるくると踊り始める少女。月明かりと雨に彩られた薔薇のステージは、彼女をより一層妖しく輝かせる。


 雨が降っている。厚い雲が覆われているはずの空を見上げれば、そこに輝くのは白銀の月。月明かりに照らされて、ダイヤモンドのように煌めく雨粒。不思議な森を進んでいくと、そこに現れるのは、周りの空間を切り取ったような、円い薔薇園。
 少女は待っている。この場所で。
 空に輝く月の魔力と、可憐な薔薇の香りに誘われて哀れな子羊がやってくるのを。


 さぁ、あなたの命に永久の美しさをあげる






 あとがきっぽいもの すーぱー〜ウェブからこんにちは〜

 ウェブでは初めまして八神羅月です。
 わざわざ冊子からウェブまでご足労いただきありがとうございます。ウェブから読まれた方、この話は一応冊子に載ってる話の結末編となりますのでそちらも読んでいただけるとありがたいです。
 ところで、このあとがきを読んでいるということは、きっとあの無謀な計画が実現したということですね。なんか、羅月は歴史の新たな一ページを開いたような気分です。
 さて、今読んでもらっているこちらのお話は、「救われない結末」になってます。こちらを選んだ方、ダークなものがお好きだと解釈しても? 羅月といいお友達になれそうですね。主人公が死んでめでたしめでたし。綺麗な終わりですよ。羅月はこのタイプの終わり方が大好きです。
 しかーし、今回の話は納得いかない。内容に納得がいかないんじゃなくて、表現方法に納得がいきません。もっとすごくしたかった……。文章表現って難しいですね〜。頭の中では、(さらに陰惨な光景が)イメージできてるのに、それを言葉にしようとすると、薄っぺらくなってしまうんです。もっと研究しなければいけませんね。その点、絵っていいですね〜。自分で思い描いたものをそのまま表すことができるんですから。まぁ、それができればの話ですがね。そしたら、この小説よりもっとすごいのができるんだろうなぁ〜。あんなことやこんなことや。うふふ〜。
 羅月の怪しい発言が飛び出してきたところでお別れしたいと思います。ここまで読んでくれてありがとうございました。よろしければ、次回作の方もよろしくお願いします。

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