研究室で マナ
うねうね
薄暗い研究室で牧博士が覗く顕微鏡にはある生物がいた。
「牧博士、それ、なんですか?」
顕微鏡を覗く牧博士の後ろに眼鏡をかけた若い研究員の女性が立っていた。
「約三八〇から七五〇ナノメータと大きさはまばらだが…ついに完成した」
女性研究員は博士の言葉にゴクリと息を呑んだ。
「角君これはね、うそを見抜いてくれる生物、ライアーさ!」
「ライアー?」
喚起に満ちた博士の言葉に角研究員は胡乱下に問い返す。
「あぁ、こいつを人の体内に寄生させれば、その人物は周囲の人間のうそを見抜けるようになる。うそが無ければいい世界になるとは思わないかいっ?」
「まぁ、……その意見に激しく、賛成ですが…」
「では、さっそく試してみよう」
ペロッ
「博士!?」
角研究員が止める間もなく、牧博士はライアーの乗った皿を舐めてしまった。
ゆらりとデスクに片手をつく牧博士。
「角君、僕は何に見える?」
「幽霊には見えません」
くっくっくっ、と怪しい笑みをこぼす博士は天井を仰ぎ見、とろんとした目を角研究員に向けた。
「オマエはおもしろいことをいうね」
「博士…!」
怯えた角研究員はきびすを返して逃げようとしたが、ライアーを寄生させた博士の動きはすさまじく速く、一瞬で壁に押さえつけられた。
右手で研究員の両手を絡めとった博士は、左手を角の腰にまわす。
「おまえ、本当は研究目的で来たわけじゃないな?」
博士の左手には研究員が隠し持っていた小型拳銃が握られていた。
角研究員は今までの怯えきった表情から、ぎっ、と目の力を強めた精悍な表情になっていた。
「あなた、これから博士をどうするつもり? どうやったら体内から出せるのよ?」
寄生された博士は研究員から奪った拳銃を左手でくるくると回す。
「そんなの説明する義理はない。それより自分の現状理解してる? おまえはわたしになにをされてもおかしくないんだよ」
さあ、ここに来た目的は? 、と拳銃をのど元につきつける博士に角研究員は博士を睨みつけながら口を開く。
「…政府からめいれいされたのよ。もし、現在危険人物とみなされている者が人類にとって危険な兵器を作り出した場合は、その者を消すようにって…でも」
博士は捕らえていた研究員の両手を解放し、つきつけていた拳銃も下ろす。
角は力が抜けてへたりこんでしまった。
「おまえがはじめてここにきたひか?」
今までとは打って変わって、静かな声で博士は問いかけた。
角は、えぇ、とつぶやく。
「あの日のことは忘れたくても忘れられませんよ。あの日、下手な私の料理を食べて牧博士ははっきり『まずい』と言いました。でも、『作ってくれてありがとう』って。普通はおいしいってうそをつくのに博士ははっきりまずいって。でも本当のことを言って、努力を認めてくれて…うれしかった」
博士はへたり込む角の前でひざを折る。そして角の涙を指でぬぐった。
「でも、あなたは博士に寄生してしまった。私がここであなたを撃てばもうすぐこの悪夢も終わり。悪夢が終われば博士も死んでしまう」
博士はにっこり笑った。
「おわかれですね」
「え?」
「博士の体内に入った私たちは、まだそれほど長く留まっていられないんですよ。あとは、あなたにお任せします。さようなら」
そう言って、博士の体が傾いた。
数日後、牧博士はベッドの上にいた。
「一瞬とはいえ、全神経を乗っ取られたら体はついていかないんだな」
そこに角が料理を運んできた。
「でも、やっぱり僕の研究はすごいなよな。うそをしっかり見抜いたんだから」